綴夢

空翔ける虹、虹架ける魚 Span.5
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遠くから、オレの名前を呼ぶヤツがいた。
良く知った声だった。
『サニー?ねぇ聞こえてる?サニー?』
「………」
『サニー?!』
「……んだよこの毒」
よりにもよって、ココだった。
そうだし。電話してたんだし。
道理で耳元でうるせぇと思った。
『良かった。急に返事が無くなったから』
何、話してたんだっけ。
あぁ、そうだ。
ブログにパネェ記事載せられて、それをコイツらに弁解して。
ついでに今日のケンカの事を愚痴って。
あぁ、そうだ。
何かコイツらにアドバイス、貰ったな。
あぁ、確かに。貰ったな。
『サニー?』
「…まだ何かあんの?」
ココが、いや、と口ごもる。
「じゃあ、切れよ」
ココは、いや、そうじゃなくて、と何か言おうとして躊躇っていた。
「…どうせみっともねーとか思ってんだろ」
もう一度、いや、と聞こえた。
『だってボクも、最後まで分からなかったから』
同じだよ、と小さく呟く声に、オレは乾いた笑い声で返した。
「おま、やっぱだっさ」
『そう思う』
「つーか、今の突っ込む所だし」
『…うん』
ココの溜め息とオレの溜め息が重なった。



『あのさ、』
ココが切り出した。
『ボクらは、足りない物が多すぎるよね』
「何が」
『人間として、大切な、色々』
「……かもな」
『だから、教えて貰わないといけないんだよ』
「……かもな」
『今からじゃ、間に合わない、か?』
「…………」
『そんな事無いよね』
「……おぅ」
『でも、ボクは。サニーよりは少ないと思う。』
「そーかよ」
『教えて貰ってる』
「…………」
『その人が、いつも側にいてくれてる』
「……惚気てんじゃねーし」
『それから、彼女が、ゴメンって』
「そういうの、自分で言うもんじゃね?聞いてんだし?」
『いないよ。言い過ぎたって。部屋で反省するって、さっき』
…………。
「何だソレ」
なら最初から言うなって。
何かオレが悪者みたいだし。
てかもう良いし。そんなの。
大した事ねーから、許してやる。
「なら良。」

その後ココは、彼女の様子を見に行くと言って。
オレはベタベタしてんじゃねーし、とイヤミを言って。
電話を切った。

そしてそのまま、床に転がった。
何も無い天井を眺めているのも馬鹿馬鹿しくて。
窓の外から伝わってくる眩しさも今のオレには必要なくて。
オレは両腕で顔を覆って、目を閉じた。


◇◇◇◇◇


そんな感じで、オレは今日、アイツとケンカした。
そんな感じで、オレはケンカの理由を話した。
そんな感じで、オレはやっと殴られた理由が分かった。

でも、分かったからって、オレはどうすれば良い?


そもそも、何でそんな早くダメになるんだよ。
下手な世話でもしてたのか?
あぁそれでソバカスは責任感じて凹んでるんだな。
だったら金魚もソバカスの事恨んでるかもな。
…………。
「バッカじゃねーの」
金魚にそんな高度な知能ねーし。
そういう身勝手で美しくねー事考えるのは、人間だけだし。
つーかオレ。柄にも無く美しくねー事考えたな。
…………。
ソバカス、金魚らが怒ってるって泣いてたしな。
でも、んなの分からねーよ。
ソバカスのくせに、勝手に金魚の代弁してんじゃねーよ。
要は、口きけない金魚が悪いんだって。
ソバカスの世話に文句言ってれば良かったんだよ。
…………。
「バカだろ」
金魚が口きければ良い?
オレもよくそんなバカな事考えるな。
そんな進化聞いた事ねーし。
…………。
でももしも、だ。
そうだったなら、違っただろうよ。
何考えてるか、分かっただろうし。
てか、もう今更だろ。もういねーんだよ。
結局、金魚がどう思ってたかなんて。
本人にしかわからねーし。
…………。
「バカだって」
金魚に『本人』って。何だそれ。
ホントどうかしてんぞ。オレ。
あ。
これが凹むって事なのかも知れねーな。
…………。
「バカだな」

とにかくオレは。
ソバカスの金魚、戻してやる魔法なんか持ってねーし。
だからソバカスに出来る事なんか、何も無いんだよ。


キンギョノコトバ。


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