綴夢

空翔ける虹、虹架ける魚 Span.4
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とりあえず、オレは電話を握り直して、誤解を解く事にした。
ソバカスは子供でも四天王候補な男でもないって念を押した。
ついでに、口論の内容も最初からグチってやった。
いつもコイツからかかってくる下らん長電話、今日こそはオレが利用してやれ、と思った。
延々と、実に延々と。
ココには相槌以外許さない勢いで、オレは話しまくった。

「……ま、そんな感じ。マジでありえんし」
一通り話して顔を上げると、時計の針が軽く一回りしていた。
『…要約すると、彼女と痴話げんかしてたって事?』
「彼女じゃねーよ!」
冗談もほどほどにしろっつーの。
誰が何時、彼女って言ったよ?!まだ言ってないよな?!
…まぁブログにもそう書かれてるとは思ってたけどよ。
つーかオレの話聞いてなかっただろ!
あれだけの話、その一言で済ますのかよ!!
『じゃあ、記事は全くの捏造なんだね』
「そうだし」
『それはそれでつまらないな』
「うるせーし」
面白い要素なんて、ハナからこれっぽっちも無いし。
『サニー?…早く仲直りしないとね、だって』
「あ?」
『ボクの彼女が』
「…今、何て言った?」
『ボクの彼女が』
オレはココの言葉に呆然とした。
「……何で聞こえてるんだし」
『何でって……ハンズフリーだから』



ふ ざ け る な



「何でハンズフリーにしてんだし?!」
『いや、PC操作しながら電話って難しいだろ?それに』
有害度MAXな男は、『長電話になったら彼女が退屈するだろうから』とのたまった。
「訳わかんねーし!」
オレの言葉を受けた電話から『ごめんなさい』と小さい声が聞こえた。
続いて『キミは悪くないよ』と忌々しい声。
更に二人であれこれ話し始めている。
ちょ、待て。
この状況でもイチャつける訳?
ある意味凄ぇな。コイツそんなに死にたいのか。
…………。
「……切るぞ」
オレはもうどうでも良くなった。
「リコたちにも、かけてくるなって言っとけ」
少なくとも今日はもう出ねーからな。
そう言って切ろうとしたら、ココから『待った』がかかった。
『あのさ、彼女が、サニーに説教…え、違う?何?アドバイス?アドバイスがあるって』
アドバイスだと?
「何の?」
『えっと…何?…彼女が言いたかった事、だって』
ソバカスの、言いたかった事?!
「ソバカスの頭ん中、分かんのかよ?」
『ボクにはさっぱりだったけど…やっぱり同性だからかな?え?違う?…でも間違いないと思う、って』
…じゃあもう少し聞いててやるし。
つーか、二人で話してないで早く言えって。マジムカつくなコイツら。
『あのさ、直接言うのは気が引けるって言ってるから、ボクから伝えるよ?』
「分かったから、早く言えって!」
こっちの気も知らないで、ココは咳払いを3回もしてから話し出した。

『えーっと…。サニーは、これからすぐその公園に行って下さい』
「……おぅ」
『そうしたら、公園のベンチに座っている女性に声を掛けて下さい』
「……え?」
何が言いたいんだコイツ。
『その女性でダメだったら、また別のベンチに座っている女性に』
「ちょ、何が言いたいんだし?」
『ねぇキミ何が言いたいの?…え、あ、そう?サニー、もうちょっと黙って聞いてて』
「…ったよ……」
『とにかく、ソバカスの女性には…え、と…嫌、われてしまった…のだから仕方ないでしょう』
「嫌われ…って………」
喉の奥がかぁっと熱くなった。
ちょっと酷くない?と言う小声に、尚も話を続けさせようとするココの彼女。
『でも、たかが一人の女性です…よ?』
……たかが?
『他にもたくさんいるでしょう?ソバカスのある女の人なんて、』
「ふざけるなっ!!」
オレは黙って聞いていられなくなった。
『さ、サニー…』
「そりゃぁソバカスなんかその辺に五万といるだろうよ!!」
『サニー、ちょっと落ち着いて』
「落ち着けるか!」
オレの拳がソファの肘掛にめり込んだ。
「たかが?他にも?!何言ってんだてめぇは!?違うだろ!アイツは一人しかいねーよ!」
オレから出た声は、ビリビリと周りの物を振動させた。
「そうだろ!?聞いてるのかココっ!!」
『聞いてます!!』
電話から今までと違う声がした。ココがその名前を呼んだ。…あぁ。
「この……」
遠くで何か倒れた音がした。怒りの余り、触覚の制御を忘れていた自分がいた。
オレは空いた方の手で、自分の髪を押さえつけて落ち着かせた。
「…話はそれだけか?」
『…分かりましたよね?』
穏やかだがはっきりと答えたソイツの声とは逆に、ココのうろたえた声はノイズみたいに聞こえた。
「…遠まわしに言ってんじゃねぇよ」
『…なら、はっきり言いますよ?』
「言えよ」
ノイズが割り込もうとしたのを、ソイツは遮った。
『同じ事、言いましたよね?』
「同じ事?」
誰に?
『その彼女に、です』
…同じ、何を?

『新しい金魚を買えって』


オナジジャナインダヨ。


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