綴夢

空翔ける虹、虹架ける魚 Span.2
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「だから、死んじまったもんはしゃーねーだろ」
「そういう問題じゃない」
オレをソバカスは真っ赤になった目で睨みやがった。
公園のベンチに座って泣いてるソバカスと、その横でそれを眺めているオレ。
言っておくがこの公園、かなりの人気スポットだし。
当然、人目も半端無い。
良くこんな場所で、一人で泣いてたし。
その潔さに感動するべきなのか?いや、違うだろ?
しかもオレに『金魚が死んだ』って言ったまでは良。
でもその途端、今までしくしく泣きだったのをビービー泣きに変えたのはどういう理由だし。
つーか、どうするよ、これ?待つしかないのかよ。
てか、待つしかないんだよな。
…しゃーね。待つか。
……………。
……っておい?!今目の前通ってったヤツ!ケータイ向けてなかったか?!
ちょ、待て。今まで気が付かなかったけど、よく見たらオレら、かなり見られてね?
やっべ。マジで何とかしないと。
これ絶対、オレが泣かせてるって思われてるだろ!

オレはわざとらしく咳払いをした。ソバカスが気付くように。
「もう泣くなし。な?」
そんで、いつもより優しく声を掛けてやった。
「………」
「あのー、アレだし。ほら!」
「………何?」
「泣いて生き返るんなら、レだって泣いてやるんだけどよ?」
ソバカスは顔を上げた。よし、泣き止んだか。
「だからいつまでも泣いてねーでオレとぱーっと買いも」
「サニーの……イジワル!」
「………はぁっ?!」
うっそだろ?更に泣いたし!!何で?!
しかもコイツ!オレの目の前で凄い音で鼻をすすったし!ありえんほどのノイズ!
その美しさマイナスな姿、ここで普通に出せるってのがマジ信じらんねーし!
写メ撮ってるヤツいるって、気付いてねーのかよ!
オレはいたたまれなくなって、ソバカスの鞄からちょっと覗いていたハンドタオルを髪でつまんでやった。
そしてソバカスの目の前にヒラヒラさせた。
ほら、とっとと気付け!てか拭くし!!
ソバカスの頭にタオルを落として、つまみ上げてまた落とした。
鈍いソバカスは3度目で漸く気付いた。
タオルを両手で虫を採るみたいに捕まえて顔全体を覆って、暫く黙って下を向いていた。
よし。とりあえずその顔隠しとけ。涙も鼻水も拭け。
…………。
……しかしどうすんだこの沈黙。
あ、今通ったヤツもケータイ握ってたし。
…とりあえず、泣き止んでもらうしか。
「な、いい加減泣き止めって」
オレはソバカスの頭を、髪の先でつんつん、とつついてやった。
「泣き止めってば」
「………」
「おま、泣けば泣くだけブサイ…」
「!!……もうあっち行って!!」
オレはソバカスに突き飛ばされた。…って言ってもオレが飛ばされる訳ねーけど。
ビクともしないオレを意地でもどけようと、両手一杯で力を込めているソバカス。
ムリだって。
悪いけど、オレはどかねーよ?
どんなにムキになってもダメだって。わかってるくせに。
ほんっとコイツ、バカじゃねーの?ありえんほどウケる。
ま、うっかり滑っても大丈夫なように、受け止める準備はしといてやるからな。
そんな顔でソバカスを見ていたら、涙と鼻水でグシャグシャになった顔を上げた。
「もう!…この、肥満!!」
「なっ?!レのどこが肥満だっつーんだよ!」
「……髪の毛が!!」
「こっ、の。ソバカスのクリクリ頭が嫉妬してんじゃねーし!」
オレはソバカスのクリクリを何箇所かつまんで引っ張った。
「触らないでってば!」
ソバカスは両手を頭の上でバタバタ動かして、ムッとした顔で睨んで。
また顔を隠した。

あー……なんだかもう。
美しくねーし。
どうしろって言うんだよ。
あ。今のヤツもケータイ……。
何枚撮られたよ、オレ。
いい加減にしろよ。
流石に頭にきたオレは、次に目の前を通りかけた男の顔を本気で睨んだ。
ビビりすぎてソイツ、ケータイ落としたまま逃げていった。はは、良い気味。
「…三日」
「あ?」
突然話し出したソバカス。オレはにやついた口元を慌てて隠した。
「三日しか、いれなかった」
「ぅん?」
「お店では、ちょっと怪我してたけど元気に泳いでたの」
ソバカスが言ってるのはどうやら金魚の事らしい。
「きっと、怒ってる」
「え?」
オレはソバカスの言葉にドキっとした。
「大事にするって、約束したのに」
「約束って…誰と?!」
ちょ、声!急に出したから裏返ったじゃねーか。
「……その子たちに」
「は、金魚かよ…」
何でか分からねーけど、オレはホッとして笑ってしまった。
そんなオレを、ソバカスはまだ泣き止んでいない目で冷ややかに見ていた。
「何だよその目」
「別に」
そう言うとソバカスはオレから顔を逸らした。

……………。
…何でこんなに気まずいんだし?
…やっぱ、アレしかないのか。ないんだろうな。
オレは大きく息を吸った。
「…しゃーねーな!!」
オレは立ち上がった。
「買いに行くぞ」
本当はヤだけどよ。
「……え?」
「だから、金魚」
まえがそんなに言うからよ。
「…何言ってんの?」
「同じヤツ、まだいるだろ」
でもって、もう泣き止めよ。
オレは立ち上がって、ソバカスの手を掴んだ。
「で、どこで買ったんだよ?」
ソバカスの顔を覗き込んだその瞬間、ソバカスの逆の手がオレの頬にクリーンヒットした。



さっきはあれだけ押されてもビクともしなかったが。
ソバカスの一撃は、オレのマジビューティーな顔を跳ね上げただけでなくて、オレの思考までどっかにふっ飛ばした。
「サニーなんか大ッキライ!!」
暫く、アイツの言った言葉の意味が分からなかった。二回目でやっと正気に返れた。
「大ッキライ!!」
「大キラ…っておま!」
今考えるとオレ、凄く間抜けな顔だったんじゃねーか?
「もう放っておいて!」
「はぁっ?!放っておけると思うのか?!」
「何でいつまでもいるの?!」
「いつまでって…まえがとっとと泣き止まねーからだろが!」
「サニーには関係ないでしょ!」
「泣くたびにブサイク度上昇してんだし!」
「それも関係ないでしょ!」
「ソバカスに涙は美しくねーんだって!」
「だから関係ないってば!」
ソバカスが連発する言葉にカチンときた。
「オレをぶっ飛ばしてても関係ねぇって言うんだな?!」
「…………」
「たかが金魚だろ?買ったんだろ?だからもう一回店に行ってやるって!」
新しいの、もう一回育てろって。今度はきっと大丈夫だって言ってんだよ。
もしダメだったらダメで、何度でも同じ事すれば良いんだよ!
泣き顔、こんな所で赤の他人に見せてんじゃねぇよ!
「…………」
黙り込んだソバカスの、次の言葉をオレは待った。
暫くして、ソバカスはポツリと『叩いてゴメン』と言った。
でもその次はオレの予想していた言葉じゃなかった。
「…でもサニーには分かんないみたいだから良い」
…このオレに向かって、何て言った今?
オレの気も知らないで、何て言った今!
「あぁ!悪かったな!?」
オレは目の前のソバカスに言ってやった。
「オマエの頭ン中なんか全っ然分かんねーし!」



エッ!ワカンナイノ?!


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