* お題他 *

□『バカップルへ30題』
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プロになった純さんと、大学生亮介の同棲話し。
こっちのが純亮デー合わせっぽい…。





* 09.猛暑 *






「あーもう、暑い暑い暑いっ」

「るせぇな夏は暑いもんなんだよ」

「んなの解ってるよ!でも暑いもんは暑いじゃん!」

「だから連呼すんなっつってんだろーが!余計あちーんだよ!」

「俺は言った方が発散出来るの!」

「あーそうかよ!」


勝手に言ってろ!とうめくと伊佐敷は広げた雑誌を乱暴に捲った。

猛暑日。それは気象庁が数年前に定めた最高気温が35℃以上の日をさす予報用語である。
35℃と言えばかつて甲子園で戦った彼等にとっては騒ぐような気温ではない。

ただしそれはグラウンドの中だけの話し。じっとしているだけで汗が吹き出てくるような室内においては、せめて騒いで発散させろというのが亮介の弁である。

対して伊佐敷はじっと堪えるタイプ…というわけでは決してなく、単なる先に亮介に騒がれてしまったから黙っているしかなくなったというのが理由のひとつ。そしてもうひとつ、最大の理由とは、



「純、アイス〜」

「さっき食っただろうが」

「だって暑いんだから仕方ないでしょ」

「腹壊すぞ」

「んなヤワじゃないし。てかエアコン使えないの、純が修理屋に電話すんの忘れたせいだし!」

「…アイス食え!でもって腹壊しやがれ!」


これまで大人しく働いていたエアコンが、突如ストライキを起こしたのが昨夜のこと。
朝練のある亮介に「10時になったら修理会社に電話しといて!」と命令を受けていたというのに、急に倉持から電話が掛かってきて、思わずそのまま出掛けてしまい…。

気がついたらすっかり夜。先に帰った亮介から鬼のような電話が入り、そういえばと思いだしたけど後の祭り。この土日はエアコンなしになってしまった。

その負い目もあって、現在伊佐敷は亮介に逆らえない状態なのだ。



「おらよ」


渋々ながらも冷凍庫からソーダを一本出してやり、ついでにペットボトルのお茶を二人分注ぐと扇風機の前で寝転ぶ亮介の側に置いてやる。
ぶっちゃけ気を利かせたわけではなく、このクソ暑ぃのに何度も動かされてたまっか、というヤツだが亮介は素直に礼を言った。


「ありがと」

「おう」


どっかりと定位置に座りこみ、開きっぱなしの雑誌に目を落せば丁度良く窓から風が入ってきて、土産に貰った風鈴がチリリンと鳴る。
亮介は暑い暑いと大騒ぎしてるが、こういう扇風機にアイスに風鈴、なんていう夏らしい夏を楽しむのも一興なんじゃないだろうか。


「なぁ」

「ん?」

「花火大会っていつだっけ」

日本の夏と言ったら花火だろ。と思いつきで話題を振ると亮介が顔を上げた。


「知らない。…なに、風鈴の音に刺激された?」

「別にいいだろ」


クスクス笑う相手にむすりと答えると、悪いなんて言ってないじゃん、とまた楽しそうに亮介が笑う。

その笑顔が妙に綺麗で…伊佐敷は細い髪を指で梳いた。
すると珍しくも亮介が、猫みたいにすり、と頭を寄せてくる。

プロ選手と大学生。共に野球を続けている二人の日常は擦れ違いの連続で、こんな風にまったりと過ごせる日なんて滅多にない。
ブツブツ文句を言ってた亮介もそこのところは解ってるらしく、ようやく甘えてくれる気になったようだ。


「よく解んないけど…。でも確か、もう終わったはずだよ」

「そうか」

残念だと言外に言えば、亮介がゴロンと寝返りを打って伊佐敷の膝に頭を乗せるとじっと見上げてきた。


「来年いこっか。オフだったらさ」

「だな」

「バレないように変装しないとね」

「暗くて誰も解んねーよ」

「それもそっか。でもこの凶悪顔は一度見たら忘れらんないよ」

「喧嘩売ってんのか」


コノヤロウ、と頬を抓ると亮介がケラケラ笑う。

昔みたいに口角だけを上げた不敵なヤツじゃなくて、本当の亮介の笑顔。それが嬉しくて仰向けの額を手で掻き上げた。
じわりと汗ばんだそこに前髪が数本張り付いていて、やっぱ暑ぃよなぁと何だか申し訳なくなってくる。



「悪ぃな、忘れちまってよ」

「仕方ないよ。案外良い風も入ってくるし、扇風機もあるしね」

「でもよ」

「それに純が何でも言うコト聞いてくれるし?」

「…程ほどにしてくれ」

「さーて、どうしよっかな?」


ふふふと笑いながら亮介が下から伸ばして来たソーダをひと口貰う。

冷たいそれをシャリシャリ齧っていると、じゃあとりあえず、と亮介が区切った。
ん?と見下ろすと綺麗な笑顔が待ち構えてて、


「汗掻いたから背中流して」

「…!そういうのなら任せとけ!」

当然とも言える期待に目を輝かせる伊佐敷に、亮介はキレイな笑顔を浮かべたまま次の命令を口にした。



「その後はコンビニ行ってアイスね」

「またアイスかよ!てかそれじゃ風呂入る意味ねーじゃねーか!」

「は?誰が一緒に入るっつったよ。純は流すだけに決まってんじゃん」

「…はァ!?」

「俺が上がる前に買って来てね」

「ちょ、マジかよ!」



甘い雰囲気はどこへやら。
穏やかな顔も屈託のない笑顔も見せてくれるようになったけど、根本的にコイツは何も変わっちゃいねぇ!

すたすたと風呂場に消えていく相変わらずのつれない背中に、空しい叫びは何の意味も持たなかった。







-オワリ-







たまにはイチャイチャ(?)な純亮を!

高校卒業したら、亮介さんは大学生になりそうだけど、純さんはプロか社会人野球やってそう。
なんていうか大学生の純さんがイメージしにくいのですよ…(笑)



ご来訪ありがとうございます^^

2009/08/11 ユキ☆




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