* お題他 *

□『バカップルへ30題』
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合宿直前の純+亮介(やや純→亮気味)
純亮デー合わせ。





* 15.親友 *






俺が知ってる亮介の顔は、口角を上げたしたり顔か、にっこり笑ってからかう顔か、心底呆れた微苦笑か。

…なぁ、解るか?
どんな時でも結局笑顔。アイツは笑った顔しか俺等に見せない。
それはある意味ポーカーフェイス。水臭いと思わないかと言えば嘘になるけど、ハナっからそうだったし、多分アレは性格だ。それに笑えるうちは大丈夫。

だってよ、本当に苦しいときは笑えねぇだろ?自制心の強い亮介だって、本当にキツくなったら素の顔が出る。それが普通。そういうモンだろうがよ。


でもよ、そうじゃなかった。
あのポーカーフェイスはそんなモンじゃない。

苦しければ苦しいほど、笑ってみせる。
強がりっていうかそれしか表情を知らないように、こんな風に笑うんだ。



「何時までやるつもりだよ」


後ろから声を掛けると、バットを振る手を止めて亮介が振り返った。
Tシャツの袖で汗の雫を一度抑え、コッチの気も知らねぇで無自覚な笑顔を向けやがる。


「え?今何時……うわもう十時じゃん!」


ベンチに置いた携帯を確認し、亮介が悲鳴のような声を上げた。


「おおよ。合宿前だしほどほどにしとけよ」

「あれ?純が優しい」

「ッカヤロ俺はいつでも優しいだろ!」


ケラケラ笑いながら片付け始めた亮介にがうと吠えて、放り出された携帯の隣に座りこむ。手にしていたポカリを一口飲んで、いっこしかねぇ外灯を仰ぎ見た。


もう夏も一歩手前。気の早ぇ虫が光りに吸い寄せられてヒラヒラ、ヒラヒラ飛んで来る。
真夏程ではないもののも、六月に入れば十分暑い。勘違いして出てくる虫がいたって不思議じゃねぇか。

そんなことを思いながら、もうひと口、と正面に向きなおると、亮介が俯き加減にタオルで顔を覆っていた。



「…!」


泣いてんのか!?と一瞬思って腰が浮く。
はずみで鳴った派手な音に、亮介が不思議そうに顔を上げた。

泣いていると思ったのは気のせいで、タオルで顔を拭いてただけだ。


(んだよ…)


何でもねぇと手を振って、誤魔化すようにペットボトルを口に銜える。残り僅かな液体が喉を通り、グシャリと空容器を潰すとゴミ箱に投げこんた。
カランという乾いた音を確認し、片腕をベンチに引っ掛けると何となく、といった風を装って細い身体に視線を戻す。

いつの間にか顔を覆っていた例のタオルを首に掛けて、軽くストレッチを始めていた背中を見ていたら、柄にもなく溜息が零れた。

咄嗟に泣いてるように見えたのは、きっと俺の願望だ。
いっそのこと泣いちまえばいいのに、と常日頃、俺が思っているからだ。


最近の亮介は、…いや今年に入った頃ぐらいから、時々様子がおかしくなった。
こうやってオーバーワーク気味な自主練をしたり、笑ってんのに目が笑ってなかったり。
最初は何でだか解んなかったけど、今は解る。…意識してんだ。自分の弟を。

はじめてニ、三年との練習試合で見た時がら思ってたけど、弟のプレースタイルは亮介に酷似している。
最近一軍に上がって来て、比べる機会が増えた今でも思う。アイツ等はほんとそっくりだ。

弟は亮介が無茶苦茶好きで、だからこそ似通ってんだって解るけど、当の本人にしてみたら良い気分はしないだろう。
攻守ともにそっくりな分、レギュラーを取るのは地力が勝る方になる。それが解ってるからこうやって逃げるように努力をするんだ。

セカンドの事はよく解んねぇけど、冷静に考えて亮介と弟の違いはあまりない。経験と体力、したたかさは亮介で、ここぞの発想は弟の方が独創的。それ以外に決定打っつったら、


(執念…)


泥臭いけどこれからの戦いに絶対不可欠なモンを思いついて、俺は少し笑ってしまった。

だってよ、それなら絶対負けねぇよ。俺等は三年だ。もう後がないし、悔しさだって知ってんだ。
鬼のように厳しくて凄ぇ先輩達ですら、届かなかった甲子園。あん時ベンチで味わった悔しさがあったからこそ、俺達は今日まで頑張れた。

だからさ、んな顔すんなよ。抱え込んでるくせに、なんてことない顔で笑うなよ。
怖ぇのは解る。負けたくないのも解る。解るからさ。

弱み見せたくないなら一人でだって泣けばいいし、勿論俺や哲にぶちまけたって構わねぇ。そういうのもひっくるめて俺達は仲間であって親友なんだろ?


意地っ張りで、自分が参ってることにすら気付かない不器用なアイツにそう言ってやりたいけど、小っ恥ずかしくてとてもじゃねぇけど言えないから。

かわりに、ベンチに踏ん反り返ったまま「お待たせ!」と走ってきた小さな頭をぐしゃぐしゃ撫で回してやった。






何すんのさ!と笑う顔に、今日も少し胸が痛む。







-オワリ-







仲間であって親友。だからアイツの笑顔に胸が痛むのだろうか?というまだまだ淡い気持ちの純さんです。
バカップルじゃないのは相変わらずですが、オトメン=片想いって図式から離れられない私がいます(笑)



ご来訪ありがとうございます^^

2009/08/2 ユキ☆




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