* お題他 *

□『バカップルへ30題』
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倉←亮 亮介さん視点です^^




* 11.雨宿り *






関東大会を終えて、監督と部長が揃って出掛けたある日の事。
午前の練習を終えた俺達は、久々のオフを楽しんでいた。

部屋でのんびり過ごす者。
真面目にトレーニングに励む者。
俺達のように、買い物へとくり出す者。
皆それなりに充実したオフを過ごしてるはずだけど、俺の横の倉持は空を見上げて大きな溜息をついていた。


「雨、止まないっスね」
「うん」
「…遅くなっちゃいますね」
「そだね」
「ええと…。その、スンマセン」
「何で倉持が謝んの」


申し訳なさそうな倉持を見上げて、ポケットに両手を突っ込んだまま、俺は唇だけで小さく笑う。


「いや、だって…。俺が買い物行きたいなんて言ったから」
「付き合うって言ったのは俺だよ」
「そう、ですけど」


珍しく歯切れの悪い倉持は、困ったように頭を掻いた。


久しぶりのオフが決まった次の日…つまり昨夜。食堂に行くと倉持と御幸を中心に二年生達が騒いでいた。
またやってるな、なんて思いながら隣を抜けようとした時、倉持が拗ね気味に言ったのだ。


『じゃあ一人で行ってくっかな〜』
『どこに?』
『あ、亮さん!』


素通りするつもりがつい口を挟んでしまい、俺は内心舌打った。
こういう時に後輩の会話に乱入するなんてどう考えてもマナー違反。ホラ、その証拠に御幸と倉持以外が緊張してる。
でも倉持がいつもの笑顔で身体をずらし、俺の入る場所を作ってくれたから助かった。
倉持って細かいとこまでよく見てるし、さり気なく気を遣える奴なんだよね。


『明日の話し?』
『そっス、亮さんはどーすんですか?』
『俺?暇だし部屋でのんびりしてようかなって思ってるよ』
『んじゃ、倉持に付き合ってやって下さいよ』
『『え!?』』


御幸の提案に、俺と倉持、二人分の声が重なった。


『何言い出すんだてめぇはよ!』
『だって亮さん暇なんでしょ?倉持、買いたい物があるらしくて。俺等明日ダメなんですよ』
『俺はいいけど、でも』
『お前、折角のオフに俺に付き合って貰うわけにはいかねーだろ』
『亮さんがいいっていってんだから別にいーじゃん』


慌てる倉持にあっけらかんと御幸が言い放ち、んじゃ俺戻ります。と手を振って食堂を後にする。
他の二年もそれに従うものだから、瞬く間に俺と倉持2人きりになってしまった。


『…で、どうする?買い物行くなら俺も何か見るから気にしなくていいけど』
『…じゃあ、明日よろしくお願いします』
『うん。こちらこそ』


思い掛けない休日の予定に俺はポーカーフェイスを崩さないようにするだけで精一杯だった。





電車に揺られいつも行かない店で雑誌買って服買って、コーヒーなんか飲んだりして。なんかこれってデートみたいじゃん?とか調子に乗ったのがいけなかったのか。
買い物を終えて外に出たら、今朝方の晴天が嘘みたいに真っ黒な雲から落ちる雨が、コンクリートを斑に染め始めたところだった。

一瞬このままマック辺りで雨が止むまで待つべきか、とも思ったけど、ダッシュすれば間に合いそうだなんて判断したのがまずかった。
思った以上に雨足は速く、結局近道の為に飛び込んだ路地裏に佇む、古ぼけたテント付きの自販機で雨宿りをするしかなくなった…わけなんだけど。

さっきから落ち着かない様子の倉持に、俺は内心気が気じゃない。


いつもならばくだらないことを誰かが言って、それに俺と倉持がツッコんで笑いが絶えない自分達。
でもグラウンドの外で二人きり。しかも肩を寄せて雨宿り、なんてありえない状況にお互いどうしたらいいか解らないのだ。

鉄壁の二遊間、なんて言われてるけど、結局俺達は先輩後輩。
友人でもそれ以上でもないんだから当たり前なんだけど…。


居心地悪そうに見上げる倉持の隣で、俺もグレーの空を仰ぎ見る。
低い雲からざあざあ降り注ぐ雨粒は、まだしばらく続きそうだった。


(倉持に傘でも買ってきて貰おうか…)


先輩ぶって買ってきてよって言えばこの場の空気は丸く収まる。
でもうちが誇る韋駄天にもしものことがあったら…いや、そういうの関係なしに無理させたくないんだけど…。



「わ、」


いっそのこと俺が行ってこようかな、と居た堪れなさもマックスになった頃、ふいに外側の肩がぐいっと引かれた。
突然の事によろめいた俺は半身になった倉持の胸のあたりに激突する。

そのまま濡れたシャツの上から動かない倉持の手に俺の反応が少し遅れた。


「……なに?」


右肩を抱かれたまま極力冷静に訊ねれば、気が付かない倉持が真面目な顔で俺を見る。


「もっとこっちに来てください」
「え?」
「じゃないと、」


肩、冷やしますから。


利き腕を濡らす雨から守るように覆われた手に、俺はどう答えたらいいか解らなくなった。
とにかく跳ね上がりっぱなしの心臓の音を聴かれない様に、と祈りながら大人しく倉持に寄りそって視線を外す。

だけど、倉持は。
俺の緊張に気付きもせずに軽く続けた。


「それに、亮さんの肩になにかあったら俺が純さんに殺されます」
「!」


あえて茶化しているのかもしれないけど、俺はいつものように笑えずに息を呑んだ。
ヒャハハ、という甲高い笑い声が悲しくて…いや、そりゃそうか。俺たちはただの先輩後輩だもんな。

俺の事を気にするのは、純に怒られるから。
責任を感じてるから。
ニ遊間を守る相棒だから。

そんなことは解ってる。でも嬉しいよりも寂しくて、そんな想いが口をついてしまった。


「…純、ね」
「ハイ?」
「倉持が心配してくれたなら、良かったのに」
「え、」


ぽろっと零れた本音はストレートのど真ん中で、言った自分がハッとする。


“誰かを気にしてじゃなくて、責任じゃなくて、相棒でもなくて。
俺は、倉持自身に気に掛けて欲しいんだよ”


なんて意味の言葉、聡い倉持ならすぐに気付く。言ってしまった言葉は二度となかったことには出来ないのに。


でもまだ、修復可能…だよね?

籠められた想いがなんであれ、冗談だよって言ってしまえば、いつも通りでいられるから。
密着した身体に気取られないように、すぅっと息を吸って、俺は何でもない笑顔を作った。

…大丈夫。ちゃんと出来てる。それでこのまま“バーカ、何真顔になってんの?”って言えばいい。心の中で練習してから見上げると、バチン、と目があって、その途端。


「…っ!」


倉持が慌てて反対側に顔を逸らした。
拒絶された。そうショックを受ける場面のはずなんだけど、斜め上の表情はさっきまでとは全然違くて…、何だか動揺してるみたいだった。


(…あれ)


何しろ、逸らした顔は、耳まで赤い。


(……あれ?)


多分良い意味で予想が外れて、だからさっきとは違う理由で体が強張る。

…だって、なんで?

拒絶してくれなきゃ。困ってくれなきゃ。そうじゃないと。
俺は倉持が好きなんだもん。「冗談だよ」って引いてあげられないじゃない。




「亮介、さん」


思い詰めたようなカラカラの声が俺を呼び、その息苦しさのまま肩を抱く力が強くなる。
倉持の胸に押し付けられた俺の腕に、雨のように激しい鼓動が響いてきた。

それに期待し過ぎないように、俺は濡れたスニーカーに視線を逃がす。


激しさを増した大粒の雫が地面を叩く。
容赦なく二人の足元を濡らしていく。



その雨音に紛れるぐらい小さな声で倉持が、









「そんなの、口実に決まってるじゃないですか」



見たこともないような真っ赤な顔で呟いた。



「…倉持」


もしかして、自惚れても良いのかな?

倉持の様子に少しだけ勇気が湧いて、目の前のTシャツの裾をそっと掴み―――多分負けないぐらい赤い顔のまま倉持を見上げた。





-オワリ-








結局倉→←亮でしたねv
でもこの2人、雨が止むまでに進展あるのでしょうか…^^;
亮介さんが勇気出してんだから倉持も頑張って!(笑)


ご来訪ありがとうございます^^

2014/5/3 ユキ☆




  Clap
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