* お題他 *

□『バカップルへ30題』
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亮介引退後。自主練帰り。亮春。初詣には行ってません^^;





* 01. 初詣で *






トスバッティングを終えて部屋に戻る道すがら。ストレッチをしながら歩く亮介に春市は訝しげな顔を向けた。


「どうかしたの?」

「いや、少し鈍った気がする」

「…そう?」

「うん、最近まともにバット振ってなかったからね」


肩を回しながら亮介は眉を顰める。練習不足による能力低下は本人的には大問題だが、怪我の再発よりは全然良い。ストレッチの理由に春市はこっそり安堵した。

この夏の予選大会の決勝、亮介は準決勝で痛めた足を理由に途中交代を余儀なくされた。
怪我をしたのは足でも、そこを庇って他に影響が出るのはよくあること。だから少しの違和感も見逃してはいけないと掛かり付け医も言っていた。

その気持ちが顔に出ていたのか、亮介に軽く額を弾かれる。


「痛いよ」

「もう治ってるっつーの。俺の心配する暇あったら自分に集中しろよ」

「別に心配なんてしてないもん」

「あっそう。じゃあいいけど」


ホッとして強がれば、亮介はまるで信じてない口ぶりで肩を竦めた。


「行き先も決まったことだし、またトレーニング再開しようかな」

「付き合うよ」


体が鈍ったのなら練習を再開すればいい。
自分で良ければいつでも練習に付き合うし、進路が決まった今なら監督も練習に参加させてくれるかもしれない。
なんにせよ一緒に野球ができる。それが嬉しくて名乗りを上げれば、あっさりと亮介に却下された。


「いいよ、いつもはゾノとやってるんだろ?」

「そうだけど、でも」

「新しいチームのレギュラーとして、やるべき事を考えろよ」

「…」

「自分に集中しろって言ったろ。うかうかしてたら追い抜かれるぞ」


バットを肩に担いで亮介が笑う。さっさと歩き出した背中を見つめ、春市は軽く唇を噛んだ。

今年引退した亮介は、来年の春には大学に行ってしまう。今年ようやく追いついたのに、また遠くへ行ってしまう。
自分達は兄弟で、それ以上の間柄。だから寂しくなる必要なんてまるでない。
そう強く言い聞かせても、二人で野球が出来るのは今しかないのに、それを寂しいと感じるのも、一緒にいたいと思うのも自分だけなのかと不安になる。


ぎゅ、と木製バットを握る手に力がこもる。
一度抱いた負の感情は春市の足を鈍らせて、亮介の後を追うどころか根が生えたように動こうとしない。
こうやって離れた距離の分だけ寂しくなると解ってるのに、春市は俯いたまま手のひらを握った。

亮介は昔からチームのことが最優先。
付き合う以上、こんなことで凹んでいたら身がもたないって解ってる。

それでも寂しくなってしまうのは、亮介のことが好きだから。この関係に不安があるから。
当たり前のように春市の側を離れられる亮介は、置いていかれる寂しさを知らないから。追いかける辛さを知らないから。

だから平気な顔で歩いていける。




「あ、そうだ」


ふいに、今までの会話なんてなかったように亮介が振り返った。


「正月は実家に帰るよな?」

「帰る、けど」

「じゃあ一緒に帰ろ。練習あるから31日でいいよな」

「練習は30日の昼までだよ」

だから皆夕方帰るって言ってたし。


そう言った春市に、亮介は「知ってるけど」と視線を泳がせた。
珍しく言いよどんだ相手を不思議に思えば、更に意外な、それこそ転地がひっくり返りそうな言葉が続く。



「そしたら純と被るじゃん。…それとも純と帰りたいの?」



照れ隠しの怒り口調に、春市は思わず笑っていた。

自分たちと同じく伊佐敷は神奈川出身。普通なら三人で帰るか、後輩である自分が一人になるのが普通だろう。
それに正月休みの4日間を自宅で過ごすのだから、帰り道の数時間を惜しむなんて亮介らしくない。
でもそれすらも惜しいから、少しでも二人でいたいから、亮介は一日ずらそうと言っているのだ。


「チームのこと考えろって言ってたくせに。伊佐敷先輩をないがしろにしていいんだ?」

「引退したから俺等はいいの。っていうかチーム関係ないじゃん」

「大学も一緒のとこだし」

「何、春市は二人が嫌なわけ?」

「そんなこと言ってないよー」


固く握り締めていた手を解いて、亮介の隣に急いで駆け寄る。寂しいのも一緒にいたいのも自分だけかとあんなに不安を抱いていたのに、独占欲めいたものを感じた途端翼が生えたみたいに軽くなった。

自分達は大っぴらに出来る関係でもないし、立ち止まって待っていてくれる程亮介は甘くない。
でも、求め合っていられるならば、この追いかけっこも悪くない。

(…なんて、我ながら現金だよね)

小さな苦笑を零し歩幅を揃えて歩き出す。その先にはぽっかりと浮かんだ月と周りを取り囲む星がキラキラ瞬いて、澄んだ夜空と刺す様な寒気が年の瀬であることを教えてくれる。
ちらり、と隣を伺えば、無言の亮介も同じように夜空を眺めていて、春市は一層嬉しくなった。

綻ぶ顔もそのままに、思いついた話題を振ってみる。
いつもならば一笑されるようなことでも、今日は一緒に笑える気がしたから。


「ねぇ、初詣は八幡様に行こうよ」

「嫌だよ、すっごい混むじゃん。近場でいいって」

「八幡様でペア守り買おうと思ったのに」

「冗談だろ。…でも、だったら埼玉の箭 弓 稲 荷(やきゅういなり)まで行ってみる?」

「野球の神様?」

「字は違うけど有名だよ。あとは甲子園の素 盞 鳴(すさのお)神社とか」

「…それは来年の夏行くからいいよ」

「そうだね」


兄弟二人では行けなかったけど、来年こそは行ってみせる。兄貴や先輩たち、監督や部長、そして支えてくれるチームメイト達と一緒に来年こそは。


「それには練習練習!」

「そうそう。タラタラやってんなよ」

「やんないよ」


軽口を叩きながら、寒空の下寮までの道を並んで歩いた。






-オワリ-







お久しぶりですみません!!気がつけば一年以上ぶりですね;
書きかけを仕上げるつもりでいたのですが、ネタの神様が「鶴 岡 八 幡 宮でペアお守りでも買っちゃえば?」と囁いて下さったので新作です(笑)初詣行ってないけどね(笑)

久々の亮春なのにいまいち糖度が足りないのはいつものこと;オチがついてないのもいつものこと;;はるちがぐずぐず凹んでるのもいつものこと><
今度こそ超ラブラブに挑戦してみたいです。好きだけど難しいんだ〜;



ご来訪ありがとうございます^^

2011/12/11 ユキ☆




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