* お題他 *

□『残念少年2 <倉持、小湊兄弟に遊ばれる>』
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こちらは 『残念少年』 の直後、食堂での話です。まずはそちらをお読み頂いてからお進み下さい。

今回は倉持視点の為春市が黒くありません。でもこのタイトルの春市は暗黒春市前提です。
天使な春っち好き様には全くお勧め出来ませんので、苦手な方はブラウザバックをお願いします。

倉持と小湊兄弟・倉持視点










(いったいアイツは何なんだ…!)


入部したての頃はキツかった夕飯も、今では気の休まる時間のはず。
にも関わらずさっきの忠告が気に入らなかった(らしい)小湊弟がやけにこっちを見てくるから今日は全然楽しくない。
つうかアイツのおかげで食った気がしねぇ!


「倉持、ココに皺寄ってんぜ?」


隣の御幸が笑いながら自分の眉間に指を当てる。
理由なんか知るはのずねぇコイツだが、何か面白そうな事になってるらしいということだけは察したようだ。


(こっちはぜんっぜん面白くねぇんだよッ)


腹いせに御幸の足をテーブルの下でガンと蹴る。お、ちょっとすっきりしたかも。


「ってぇ〜!」
「うるせぇ、さっさと食え!あと飯の後バッド振るから付き合えよ」
「ん?いいけど、少し休んでからにしようぜ」


きょとんとした御幸がすぐ様訳知り顔になる。バーカ、話す気ねぇっての。さっきからジロジロ見てくるあの猫っ被り腹黒野郎に絡まれたらたまんねぇから誘っただけだ。

つうか何でアイツはジロジロ俺を見るんだよ。
一瞬剥がれた化けの皮を見れば俺の指摘が図星なのは言うまでもない。
ならば避けるのが普通。警戒するのが普通だろ?

でもこの視線はそういうんじゃない。
アイツの裏の顔を見破った俺を面白い相手だと、興味を持ったと言わんばかりの生意気でクソむかつく視線だからイライラする。


(あーー、くそっ。何で声掛けちまったんだ俺!)


こんなことになるなら放っときゃ良かった。
小湊が笑顔で真逆の事を考えていようがどうでもいい。
騙されただの泣かされただの、そういう話を聞くでもなければ不真面目なプレーをするわけでもない。

ならば俺には関係なかった。


(…でも、)


心の中で尊敬する先輩の顔を思い浮かべる。
体格的には恵まれてないけど、気持ちが強くて真っ直ぐで、毒舌だけどアイツとは正反対の毅然とした人。

自分にも他人にも厳しくて、でも見せないだけで優しい亮さん。
『そんな兄貴が大好きなんです』って素直で何事にも一生懸命な『仮面』を被った弟。

言葉と考えていることが違うという点では同じでも、アイツと亮さんは全然違う。
それが気になってもどかしくて、気が付けば声を掛けていた。


「ちょっと春市?」
「っ!?」


あまりにも近くから考えていた一方の人の声がして、俺は不覚にもビクッと身体を跳ねさせてしまった。


(うああああビクっちまった!!誰も見てねぇだろうな!?)


慌てて視線だけでササッと周りを見渡すが気付いたのは隣の御幸ぐらいなもんで、なら後でタイキックでしめてやればそれでいい。


「何?兄貴」


色々焦る俺なんか眼中にない、と言った風にいつもの猫をぶら下げた弟が亮さんを見上げた。

っていうか、離れたところに座っていたはずの亮さんが何で俺の隣に立ってんだ?
しかも次の瞬間、俺と俺の三つ斜め前に座る弟との間に身体を割り込ませ、綺麗な笑顔でとんでもない一言を口にしたから今度こそ素っ頓狂な声を上げる羽目になった。


「倉持は俺の(相棒)なんだから色目使わないでくれるかな?」
「へ、はあ!?」
「い、色目って兄貴ってば…っ」


カァッと染まる頬。おま、よく出来るなそういう顔…!
つうか、誰が誰のなんだって!?

ともかくサスガは弟。即座に亮さんの話に乗ってみせる。


「そんなんじゃないよっ!」
「そ?チラチラ倉持の事見てたじゃん。もの欲しいそうな顔したって無駄だよ?お前に(レギュラーを)譲る気はないし」
「見て…たけどっ。でも解らないでしょ?俺との方が(野球の)相性いいかもしれないし…」


そこで恥ずかしそうに俺を見るな!お前の本性はとっくにバレてんだよ!


「あのね、俺はお前より沢山倉持と(野球を)ヤってんだから解るっつの。ね、倉持?」
「え、あ、ハイ!?」


いきなり振られて俺は慌てふためいた。思い切り上ずった声に亮さんが我慢出来ないとばかりに笑いだす。


「あっはは!お前、元ヤンのくせに結構可愛い反応するね〜」
「な、っ!」
「ごめんね?倉持。俺、お前の事可愛い後輩にしか思えないや」
「ち、違いますっ!そーゆー言い方しないで下さい!」
「あははっ」


けらけらと楽しそうに、来た時と同じぐらい唐突に人騒がせな人が戻っていく。
それと共にいつの間にか出来ていた人垣がバラバラと崩れはじめ、からかわれて撃沈する俺へ「頑張れよ」だの「ご愁傷様」だの優しいんだか優しくねーんだか解らない声が掛けられた。


「〜〜〜!」
「元気だせ…!」


箸を握り締め突っ伏す俺に純さんがやけに気持ちのこもった励ましを掛けてくれる。「解る。アイツにゃ俺も苦労してっからよ」と言うことだな、きっと…。

それにしても、ああもう!何しに来たんだ、あの人は…!
あの弟にしてこの兄貴。いや、あの兄貴にしてこの弟か?何にせよどういう性格してんだこの兄弟はよ…。

大体憧れの人から、野球の事とはいえあんな風に『俺の』とか言われたらどうしていいか解らなくなんだろ。
しかも咄嗟の事だったからいつもみたいに上手く乗っかることも出来なかった。


「倉持、顔マジ真っ赤」
「うっせえ!!!!」


呆れる御幸に最後まで言わせず飯をかっ込む。
その間にも斜め前から注がれる視線がすっげぇ痛い。もう見なくてもお前の言いたいことは解ってんだよ!


『倉持先輩って兄貴の事が好きなんですね〜。ふぅ−ん。そうだったんですかぁ〜』


みたいな楽しげな視線がこれでもかってぐらい降りかかってくる。

ああああああとんでもないヤツにとんでもないことを感付かれた。
確かに俺は亮さんが好きだ。けど正確にはそういうのとは違う。そういう生々しいヤツじゃない。

きちんと言葉にするならこの感情は『憧れ』だ。だから知られたって大したことじゃない。
さっきみたいにからかわれて、でもあの人の事だから最後にはきっと「ありがとね」と微笑んでくれる。


(でもまだ、言われたくねぇんだよな)


そしたらこのふわふわとした心地よさが終わってしまう。気持ちに整理がついてしまう。
よく解んねぇけど…それはまだ、少し寂しい気がするのだ。


(…ま、今はもっと重要なことがあるけどよ)


とりあえず、余計なことに首を突っ込んできた俺をどう料理してやろうか、と内心笑ってるに違いない後輩を黙らせるのが先決だ。

何はともあれこれ以上関わらない、ということだけは決まってる。
つーか関わりたくねぇ。



…と思いつつんなワケにいかねぇよな…、と猫に気に入られたネズミのような嫌な予感に溜息が出た。






-オワリ-





調子に乗って残念少年の続き、倉持視点です。
このあと暗黒春市編に続きます。

今回は倉持視点なので春っちの黒さが影を潜めてますね!
その分読みやすいと思いますが、このシリーズ?としては物足りないかもしれません(笑)
次は黒春市になりますが、お遊びですので優しい目で見逃して下さい(汗)



最後までお読み頂きありがとうございました^^

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2014/3/6 ユキ☆


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