* お題他 *
□『大きな背中に憧れる』
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ゾノ先輩と一軍に上がったばかりの春市。春市視点
合宿の後ぐらいかな。
(聞きたくないことって、どうしてこう聞こえちゃうんだろう)
忘れ物を取りに来た部室の壁に凭れて、春市は前髪に隠れた目を伏せた。
夜気に冷された壁の内側から聞こえてくるのは、つまらないやっかみ。
押し殺し気味の声の主が誰なのか解らないけど、この人達が一年の分際で認められた自分達の事を快く思っていないのは明確だった。
(でも、だから何なんだろう、ね?)
春市は淡い唇の両端を上げる。
(陰口を叩けば一軍になれるとでも思ってるのかな。それとももう諦めてんの?
だったら辞めればいいのにね)
ぶっそうな思考をあどけない外見から僅かに滲ませ、春市は本来戦うべきグラウンドに視線を転じた。
甲子園予選を目前にした今、昼は完全に一軍専用だが夜は違う。
煌々と照らされたそこには、来年こそはとサポートに回る悔しさをバットに込める先輩や同級生の姿がある。
そのひたむきさに泥水のような苛立ちが少し引いていく。
そうだ、自分は。あの人達の想いを受け止めなきゃいけない。その上で先を目指さなきゃいけない。
ここは弱肉強食の世界で、体力も経験もない自分が今の立場を守り抜ける保証なんてないのだから。
負けられないな、と春市は大きく息を吸う。
自分のいるポジションは、容易に立っていられる場所じゃない。
そもそ今は一軍ってだけで、不動のセカンドは別にいる。
「…兄貴」
勇気をくれる人の名を口にして、春市は顔を上げた。
夜空に輝く星よりも近く、自分に光をくれる人。
でも思い描く人とは違う声が横から掛かった。
「どうした?小湊。リストバンドあったんか?」
「あ、いえ。教室に忘れたみたいです」
陰口で部室に入れなかったことを隠し、走り寄る。
顔も言葉も少し怖いけど、本当は優しくて野球に対して真摯な先輩にこのことを告げれば助けてくれるに違いない。
でもそんな風に上を頼ったりその素振りを見せてはいけないと、常に二つ上の兄に守られてきた春市は経験から知っていた。
「そうか。じゃあ続きいいか?どうもフォームが安定せんのや」
「はい」
既に汗だくの前園が下ろしていたバッドを構え直す。
力強い音を立てて振りぬかれるヘッドと前園の真剣な表情に、春市の中のドロドロしたものまで薙ぎ払われていく気がした。
上に上がろうと必死に努力する姿。
同じ先輩でも、文句しか言えない人達とは全然違う。
でもそういう人にも認められてこその一軍だから。
「どうだ?小湊…って何やってんだ?」
「いえ!僕も頑張らないと!」
「いやお前は頑張らんでええ言うとるやろが!」
「いち!に!」
「おいコラ!話し聞けい!つうか振りながら声出すな!舌嚙むぞ!」
結局春市の心配をする前園の人の好さに笑みが浮かぶ。
悔しさをバネに努力し続ける先輩達。
常に真っ直ぐ前を見て走り続ける仲間達。
自分の指針となる尊敬する兄と、勝ち得たポジションに甘んじず努力を怠らない先輩達。
(後ろを見て傷ついている暇なんて全然ないよね!)
「ゾノ先輩」
「あ?」
「ありがとうございます」
「は?何や急に」
「僕、この学校に来て良かったです」
「だから何言うてんねん!」
意味が解らん、と言いつつ律儀に会話に付き合ってくれる先輩に「何でもありません!」と笑い返すと、「舌噛んでも知らんぞ!」と前園が叫び返した。
-オワリ-
ツイッターのゾノ春に影響されて私もゾノ先輩を書いてみましたv
でもゾノ春ではありません〜。ゾノ先輩とはるっち。黒くても白くてもピンクでもはるっちは可愛いよね!
最後までお読み頂きありがとうございました^^
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2014/2/28 ユキ☆