* 倉亮 *

□『幸せになれなくてもいい』
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140文字で書くお題ったー 『貴方は倉亮で『幸せになれなくてもいい』をお題にして140文字SSを書いてください。』 をお借りしました。


亮さんが弱気です。倉持が好きすぎて別人です。
亮さん大学1年、倉持高3。
亮介さん視点。











「亮さん…!やっと会えた…!」


夕闇に落ち始めたアパートに来るなり倉持に抱き締められた。
待てないとばかりに強く強く背中を抱く腕になすがままにされながら、俺はぼんやりと天井を眺める。

今年のドラフト候補に選ばれた倉持の周りは今とても賑やかで、だから今日は久々に訪れた2人きりの時間だった。
でも俺は今日、大切な恋人に言わなければいけないことある。


『お前ももう卒業だし、そろそろこんなお遊び終りにしよっか』


用意した別れの言葉を口の中で反芻する。
もう何度練習したか解らないそれを、今日は本人を前に口にするのだ。

でも…大丈夫。ポーカーフェイスは得意中の得意。きっと上手く言えるはず。


緊張気味に少し緩んだ腕の中で身じろぐと、離れないでと言わんばかりに背中をぐっと引き寄せられる。
倉持のシャツの肩に顔を埋め、俺は黙って目を閉じた。

シャツから香る洗剤の匂い。
走ってきたのか少し汗ばんだ倉持の匂い。
別れたらこんな当たり前の匂いを感じることもなくなってしまう。


でももう今までのようにはいられない。
卒業すればそれぞれの道を行かなきゃいけないんだから。

だって男同士のこんな関係長くは続かない。
幸せになれないことも解ってる。

二年前、倉持の手を取るときそれでもいいって覚悟を決めた。
でも倉持が不幸になると思ったら俺からちゃんと別れを言おう。ひっそりとそう決めていた。

―――なのに。


…怖いのはたったひとつ。

ここにきて、大切な倉持を不幸にするのが俺だという事。
『別れよう』というたった一言を言い出せない事。



「亮さん」


思考を遮るように口付けられて、思わず回しなれたシャツの背中をぎゅっと握る。

深く繋がった唇がゆっくり離れ、倉持と目が合った。
満面の笑みとは言えない、でも俺を安心させる為だけに浮かべた笑顔がそこにあって、もう一度抱き締めた倉持が「心配しないで下さい」と何かを察して背中を撫でる。

「何が?」と強がる前に倉持が続けた。


「俺は亮さんが好きなんです。亮さんがいてくれるなら…俺はどこでも幸せなんです」


俺の気持ちに気付いてるくせに、倉持は真っ直ぐにそう言った。
照れくさそうな笑顔と言葉に俺は唇を少し開けて、結局何も言えずに顔を伏せる。


『…嘘。嘘だよ。

プロに誘われてんでしょ?
その足を活かしてみないかって言われてんでしょ?

でも俺とのことがバレたら折角の誘いが台無しになる。
すぐにはバレなくても、有名になれば嗅ぎ付けられるかもしれない。
男同士の恋愛なんてスキャンダルにしかならないし、そしたらお互いつらいじゃん。
だったら今別れるのが利口だと思うよ』

そう言わなきゃいけないのに顔を上げられない。唇が震えて役に立たない。


終わりにしようって決めたのに。

2人きりで会うのは今日が最後。
明日からは元相棒で、ただの野球部の後輩ってことにする。

そう思って呼んだのに声が出ない。倉持も放してくれない。

嫌なのに、倉持を不幸にしたくないのに。
どうして俺の口は接着剤でくっついたみたいに動かないの?


「泣かないで下さい」
「っ、泣いて、なんか…っ」


言葉とは裏腹に涙が頬を伝った。
泣いたのなんか久しぶり。高校最後の夏の予選に敗退して、悔し涙を流して以来。

もう恥も外聞もない。
倉持が好きなのは本当の事。
でもいつか俺が倉持を不幸にする。


「俺は…、倉持に、っ」


幸せになって欲しい。
思いっきり野球をやって欲しい。

その為に俺が邪魔なら身を引くよ。
倉持が嫌だと言っても、いつかそれがお前の為になるはずだから。

想いは言葉にならなくて、代わりに溢れ出た涙が白いシャツを濡らしていく。


「亮さん」


なのに俺の想いが届かないのか、駄々っ子に言い聞かせるように倉持が言った。


「俺は亮さんのそばにいるのが一番幸せなんです。それを奪わないで下さい」


倉持は優しい。でもずるい。
俺の言うことを聞いているようで、肝心な時には頑として譲らない。
後輩のくせにって怒っても拗ねても、ここぞという時は自分の考えを押し通す。


「亮さんにそんな顔させるぐらいなら、俺はプロになんかなんなくっても構いません」
「…!」
「って言ったら怒りますよね。だから約束します」


弾かれたように顔を上げた俺の頬に両手を当てて目をあわせる。


「プロにはなります。亮さんに迷惑が掛からないように気をつけます。でももし亮さんとのことがバレたとしても、」


倉持が俺の目を見てニッと笑う。
不敵で、強かで、自信過剰なぐらい強気な顔で。


「文句を言わせない程の選手になります。どんな事があっても亮さんを放しません」


『…俺といたら倉持は幸せになれない。だから身を引く』
頑なだった俺の心に真っ直ぐな言葉が突き刺さった。

それがどんなに大変なことか解ってるのだろうか。
呆れるぐらい子供じみてるのに、胸がじんと温かくなる。


「…子供みたいな事言うな」
「ですよね。でもなります」
「…うん」
「だからどこにもいかないで下さい」
「…億超えプレイヤーにならないと無理」
「、え」
「だっていざとなったら、」


目に溜まった涙を拭う。
1年ぶりの涙は哀しくて、でも嬉しいものに変化した。

倉持は俺といたら幸せになれないって思ってた。
でも俺といることが一番幸せだと、外野を黙らせるぐらい上手くなると約束してくれた。

そんな前向きな倉持に対し、怖がってばかりいる自分が情けなくて格好悪くて、俺は無理に笑みを浮かべる。

俺らしく、強気に。
…俯いてばかりもいられないよね。

それに、


「海外に移住出来るぐらい稼いで貰わないと無理でしょ?」
「う…っ。頑張ります!」


複雑な顔で胸を叩く倉持を見ていたら、このバカみたいに真っ直ぐな男と幸せになれるのは俺だけかもしれない、と少し自惚れていい気がした。









-オワリ-







亮さんがぐだぐだ弱気ですみません;
ボス亮以来の乙女亮さんですね。時々こういう発作が起こるのです;

でもたまにはこんな「倉持が好きすぎて思いつめちゃう亮さん」もアリではないかと…。
倉持に「どんな事があっても亮さんを放しません」って言って欲しかっただけという話もありますが^^;

こんな泣き虫亮さんを受け入れてもらえるのか、そもそもタイトルと微妙に違うじゃないかと思いつつ更新です(汗)



最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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2013/12/30 ユキ☆


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