* 倉亮 *

□『エゴイストの愛情表現』
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「亮介さん、何を聴いてるんですか?」

「音楽」

「…そりゃそうでしょうけど!」


イヤホンを外すどころか雑誌から顔も上げない亮介に、倉持はそれ以上言えなくなる。

好きな人のことなら何でも知りたいと思う倉持に対し、にべもない亮介。
毎度の事ながらこの図式には溜息が出る。

しかもこれでいて亮介は機嫌が悪いわけではない。これが恋人である自分に対する普通の態度だって言うのだから……やめよう、余計哀しくなる。


(この人、俺といてホント楽しいのかな…)


2人っきりになった途端にラブラブいちゃいちゃ、なんて、この人相手に期待しても無駄というもの。
それでもトライしてしまうのは、相手にとって自分が特別であることを確かめたいからだ。

今日もまた満足な結果が得られなくて、つい零れそうになる溜息をぐっと飲み込むと(下手に零すと機嫌が急降下するから)、せり上がる不安から逃げるように、亮介の向こう側にある棚に目をやった。


確か、三段に分かれた棚の一番上が亮介の私物。きちんと整列されたそこには、雑誌、小説、漫画本、CD、DVDが並んでいて…。


(ん?CD?)


立ち上がって一枚手に取る。自分ではあまり聴かないアーティストだけど、数ヶ月前皆でハマったドラマの主題歌が収録されているから、比較的新しいアルバムだろう。
でも何でCD?と思いながら背中を向けたままの亮介を一度見て、部屋の中をざっと見渡す。やっぱりだ。ここにはコンポらしきものは置いてない。

ゲームもそうだが、特に音楽は個人の趣味が分かれるので、パソコンや携帯音楽プレイヤーを使うのが暗黙の了解。
もちろん好きなアーティストの新譜なら買うだろうし、倉持がどうこう言うことじゃない。ただ亮介が今耳にしているイヤホンの先も、愛用の携帯音楽プレイヤー。それならばダウンロードがレンタルで済むので、わざわざ貴重な小遣いを割く必要はないだろうに。

手にしたアルバムを元の場所に戻し、亮介の前にもう一度座る。ふいに立ち上がり戻ってきた倉持を一瞥した涼やかな目が、再び雑誌に落ちる前に疑問をぶつけてみた。


「CDで聴く機会あるんですか?」

「ないよ。でも時間がある時しか取り込めないから、レンタルだと心許ない」


素っ気無いけど会話になった。ただそれだけのことが嬉しくて、倉持は「それなら」と続けた。


「ダウンロードでも良くないっすか?」

「それじゃ味気ないじゃん」


何となく言いたいことが解る気がして、倉持は頷いた。

確かにダウンロードだと自分のものになった感じがしないし、割り切ってレンタルするには時間が読めない。
なら買ってしまえと言う事か。

そう考えれば納得がいく。すっきりした気分で温くなったコーラに手を伸ばした倉持に、しれっと、実にしれっと亮介が言った。


「それに、好きなものは側に置いとかないと気がすまないんだよね」

「あ、俺もです」

「……………あっそ」


あまりにも自然に言われたから普通に返してしまったが、わずかな沈黙のあと、不機嫌そうな面持ちでぷいと目を逸らされた。
その機嫌の低下っぷりといったら、ジェットコースター並み。いや、フリーホールクラスかもしれない。


(ええっ!?何で急に!?)


慌てて様子を伺うが、無言で雑誌に目を落とす亮介からは何のヒントも得られない。

聴いてる曲の話を振って、玉砕して、CDの話しをして、で、好きなものは側に置いておきたくて…。
ひとまず思い返してみるが、おかしな所はどこにも


(………あ、)


ひとつの可能性に行き当たり、倉持はぱっと亮介を見た。
相変わらずむすりとした相手。でも心なしかその頬は赤らんでいて、口元だってもの言いたげに尖っているじゃないか。

この人は言った。『好きなものは側においておきたい』と。

それはつまり、逆を言えば、どうでもいいものは必要ないということ。
こうして今一緒にいる倉持を、必要としているということだ。


少々強引過ぎるかもしれないけど、不思議とこの解釈が間違っていると思えなかった。
解り難すぎる亮介の意思表示に、今度こそ倉持の頬がだらしなく緩む。

正直話しかける理由は何でも良かった。せっかくの2人きりなのに、相手にしてもらえなくて寂しかったから、たまたま目に付いた疑問をぶつけただけだ。
でもそこからこんな返しがくるなんて、予想外すぎてすました顔などしていられるか。


「何笑ってんの?」

「笑ってますか?」

「気持ち悪いんだけど」

「すみません」


突然亮介の悪態を気にしないどころかにやにやし始めた倉持に、ふくれっ面のままもう一度気持ち悪いと文句を言ってそっぽを向く。

先輩後輩から恋人になって、2人きりの時間をどう接したら良いか解らなかった倉持だけど、ひょっとしたらそれは亮介も同じなのかもしれない。
そう思うとおかしくて、だったらこのぎくしゃくした貴重な時間を楽しんだほうが絶対良い。


「亮介さん」

「…なに?」


そっぽを向いたまま返事をくれる可愛い人に、同じぐらい解り難く、でも亮介にだけは伝わる告白を返す。


「俺も、欲しいものは手に入れないと気がすまないんですよ?」

「……あっそ」


素っ気無い返事は変わらないのに、さっきより甘い響きをくれた人の熱い頬を両手で挟むと、への字に曲がった唇を奪った。



あなたの心も身体も全部欲しい。






-オワリ-





ツンデレ亮介さんと振り回される倉持。
この構図と書き方が好きらしい(汗)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


2012/3/28 ユキ☆

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