* 亮春 *
□『俺のものにしたい、でも、出来ない』
1ページ/1ページ
3つの恋のお題ったー 『小湊兄弟への3つの恋のお題:ずっと隣で笑っていて欲しい/真昼だって構わない/俺のものにしたい、でも、出来ない。』 をお借りしました。メインは『俺のものにしたい、…』ですが、何となく全部組み込んであります。
亮→春
亮介さん視点。切な系です。
ざあざあ雨が降り注ぐある日の午後。課題を理由に部屋に上がりこんできた春市の手首をそっと掴む。
「兄貴…?」
不思議そうに俺を見る弟の瞳が長い前髪の下から覗いている。
綺麗で、純粋で、これから自分がどうなってしまうのか全く予測していない、そんな瞳で見つめてくる。
ごろ、と空が唸りを上げて、子供の頃から雷が苦手な春市がびくりと身体を震わせた。
「あの、」
「そろそろ」
「え?」
「雷がきそうだね」
貼り付けた笑顔でそう言えば「やめてよ〜」と苦笑いした弟が所在なさげに辺りを見回す。
落ち着かないのは雷のせい?それとも俺の様子に気がついてるから?
でも、どっちでもいいや。だって、ついさっき。お前を俺のものにしてしまおうと決めたから。
「ひゃ!」
ピカ!と空が一瞬輝いて春市が小さな悲鳴と共に身を縮こませる。
そのまま俺の胸元に空いてるほうの手を添えて、窓の外に視線をやった。
「……」
この手は、俺を信じ、俺を頼る弟の手。
小さな頃から変わらない『弟』の手だ。
(だからあんな残酷なことが言えるんだよね)
ふ、と先ほどの会話と共に唇に自嘲が浮かぶ。
『先輩達って人気あるのに彼女いなそうだよね』
『兄貴は?好きな人いないの?』
『兄貴に彼女が出来たら寂しいな…。あ、でも僕、ちゃんと応援するから大丈夫だよ!』
そんな事を平然と言う春市に、俺が好きなのはお前だよ。って言ったらどんな顔をしたんだろう。
最初は笑って、冗談じゃないって解ったら俺から逃げる?
…そりゃそうだよね。それが普通じゃん。希望なんてあるはずないじゃん。
外れっこない想定に思った以上に心が痛む。
解ってる、想いなんて通じ合わない。だからこれまでだってこれからだって、好きだなんて言う気はないし、それで良いと思ってる。
(思ってる……、はずなのにね)
握った手首を引き寄せる。
わ、と小さな声を上げて春市が俺の胸に倒れこんだ。
「ど、どうしたの?」
慌てて顔を上げる春市。
何でそんな暇を与えずに抱き締めなかったんだろう。
逃げ場をなくして好きだと告げる絶好のチャンスだったのに。そうしなかったのは、まだ迷いがあるってことなの?
(俺を慕う春市を裏切れない、とか?)
もう、何度自問自答したか解らない言葉が無意識に脳内を支配して笑ってしまう。
何が正しいかなんて解らない。だったらどっちだっていいじゃない。たとえ泣かせる事になったとしても俺が一生守っていけばいいじゃないか。
(…本当に?)
(それでいいの?)
(それで春市は幸せになれるの?)
「兄貴?」
「…!」
弟の呼びかけに顔を上げる。
何の疑いも抱いていない綺麗な瞳。その輝きが胸に響く。
殆ど無意識に身体を放し手のひらを合わせて指の間を握りこめば、不思議そうに首を傾げた春市がそれでも俺に倣い握ってくれた。
「こうしてると安心するね」
ふふ、とほころんだ顔が更に俺の決心を鈍らせる。
ずっと春市を思い続けてきた。それこそ十年以上も昔から愛しい人を守ってきた。
この気持ちが間違いだと思おうとしても、それでも好きだと、手に入れたいと、自分だけのものにしたいと願う気持ちは一時だってなくならなかった。
それこそ春市が隣で笑っていてくれるなら何だって出来ると疑わないぐらいに。
なのに、好きだと告げて、俺のものになってよと懇願して、無理に退路を奪ったとしてもそれでこの先どうするというのだろう。
(…どっちだっていいって思ったのにな)
手のひらをぴたりと合わせたまま少し強く手を握る。
この手に伝わる安心しきった温もりを裏切ることになったとしても。
見つめる瞳が裏切りを責めて憎しみに染まることになったとしても。
手にいれたい。
俺のものにしたい。
誰にも…、渡したくなんかないのに。
「あ、晴れてきたよ!」
窓の外に目をやった春市が嬉しげに笑う。
真昼の雨雲を縫って差し込む天使の梯子が、俺の暴走に待ったをかける。
(……ふぅ)
こんな風に躊躇えるうちは、まだ時期じゃないってこと。
ならば苦しくてももう少し、この笑顔を守っていたい。
それでも、何に変えても手に入れたいと思う日が来たら…?
(その時はもう…引いてあげられないよ)
「明日練習出来るかな」
「通り雨だし、大丈夫でしょ」
外を気にする小さな頭を軽く撫でる。
子供の頃と同じ仕種に驚いた春市が振り返る。ニコリと笑い返せば愛しい人が破顔した。
(出来るなら、この笑顔を泣き顔に変えずに済みますように)
春市への想い毎、勝手な願いを心の奥に押し戻した。
-オワリ-
大好きな人がすぐ近くにいるのに、自分を追いかけてくれているのに、この想いは伝わらない。気付いても貰えないなんてきっと哀しい。
無理にでも振り向かせたい衝動に駆られて、でも、やっぱり出来ない。
無邪気に慕われればられるほど壊してしまいたい。でも変わらずに笑っていて欲しい。
そんな亮介さん過ぎるお題でした。
片想い亮春愛すぎる…!
最後までお読み頂きありがとうございました。
■ Clap
⇒感想、要望等ありましたら一言お願いします。頂けると励みになります!
2014/3/28 ユキ☆