天上の花 〜君へ〜
□コネコノウタ
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現れたのは、あの桜の木の下で見た黒髪の少女だった。
「どうしたの、刹那?」
「昼飯は食い終わったのか?」
アレルヤとロックオンがそう尋ねるけど、少女は何も言わない。
「クロスロード君、この子は一年生の刹那・F・セイエイ」
アレルヤがそう言って、少女の背中にそっと触れながら僕達の傍に連れてきたけど――。
「………………」
今朝と同じく、刹那は僕の顔をしばらくじっと見つめていたけど、すぐにさっとロックオンの背中に隠れてしまった。
そんな刹那を見て、ロックオンは僕に申し訳なさそうに笑う。
「悪ぃ。コイツちょっと人見知り激しくてさ……」
「あ、うん……」
「悪気はねぇんだけどな……」
ロックオンは溜息をついて、優しい仕草で刹那の頭を撫でている。
そして――刹那はただじっと、ロックオンの影から僕をじっと見つめていた。
その様子は丁度、怪我をして怯えた仔猫のようで。
何故か僕は切なくなった。
「お。そろそろ学園案内も打ち止めか」
ハレルヤの声に体育館の壁に掛かった時計に目をやると、確かに時間はあまりない。
「残りの場所は、今日の放課後にでもどうかな?」
「あ、アレルヤがいいなら……」
「じゃ、俺もついてくわ」
アレルヤの提案に頷くと、何故かロックオンも乗ってきた。
驚いて、その顔をまじまじと見ると、ロックオンは不満そうに唇を尖らせて目を細めた。
「何だよ沙慈。俺がいたら不満なのか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「ロックオン・ストラトスが行くなら、私も同行しよう」
「ティエリアも?」
アレルヤが意外そうに目を瞬かせると、ティエリアはさも当然というように頷く。
「そもそも学園案内は委員長の仕事だろう。……君の妹もそう言ってるしな」
そしてティエリアは、ちらりと横目でハレルヤを見た。
けれど、ハレルヤはふん、と鼻を鳴らすと、人の悪そうな笑みを浮かべてティエリアを見返す。
「何だかんだ上手い事言って、てめぇは結局、ロックオンに引っ付いてたいだけだろ」
そう言われたティエリアの頬が、一瞬にして真っ赤に染まった。
(あれ……?)
そんなティエリアの様子に一瞬違和感を覚えたけれど、それはティエリアの怒声によって掻き消された。
「万死!」
そう叫んだティエリアは、さっさと一人で体育館を出ていってしまった。