天上の花 〜君へ〜
□シロイロノムコウ
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ばすんっ。
鈍い音と同時に、凄まじい衝撃が僕の後頭部を襲い、一瞬目の前が白くなる。
思わずその場に崩れ落ちると、開いた更衣室のドアから、凛とした声が響いた。
「お前か……最近この出没する覗き魔は!」
衝撃でまだくらくらしながら何とか視線を上げると、そこには不機嫌に目を細め、バスケットボールを片手に抱えた長身の女性がいた。
緩くウェーブの掛かった茶色の髪に、真っ白な肌。
瞳はまるで翡翠みたいな青と緑の中間の色で、顔立ちは可愛いというより、綺麗といったほうが良さそうだった。
女性はツカツカとこちらに歩いてくると、いきなり僕の胸倉を掴んで引き上げる。
女の子のわりに彼女の力は強く、僕は人形のように簡単に引き上げられた。
「悪いが、俺は覗き趣味な野郎を見逃すほど、甘くはねぇからな」
だん、と鈍い音がして、彼女の手から、バスケットボールが落とされる。
そしてそれはころころと転がって、近くに落ちていた別のバスケットボールに当たって止まった。
(もしかして、アレが当たったのかな……)
そんなことを考えていると、女性はぐっと僕の胸倉を掴む手に力を込めてきて――。
「今日の俺は容赦ねぇぞ……!」
視界の端で、女性の左手がしなるのが見えた。
その時。
「待て。ロックオン・ストラトス」
液体窒素のようなクールな声が響いたと思うと、女性――ロックオンの拳が、僕の右頬すれすれで止まった。
「なんだよティエリア!」
ロックオンがイラついたように首を巡らして後ろを振り向くと、そこには眼鏡をかけた、まっすぐな紫の髪の女の子が立っていた。
その時僕は、呼吸が止まるかと思った。
朝のような不思議な感覚を覚えたからでも、締め上げられた襟が苦しいわけでもない。
ただ、現れた少女の美しさに目を奪われていた。
肩口でまっすぐに切り整えられた紫の髪に、氷のような紅い切れ長の瞳。
白い肌はまるで陶器のようで、整いすぎた顔立ちと合わさってまるで彼女を人形のように見せている。
ティエリアと呼ばれた少女は、僕をちらりと一瞥すると、呆れた様子でロックオンを見上げた。
「君は本当に人の話を聞かないな。その生徒は犯人ではない」
本物はあっちだ、とティエリアが指差す先には、反対側の出口に向かって走っていく見知らぬ男子生徒。