天上の花 〜君へ〜
□ギンイロ キンイロ
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――午前中の授業も終了して、昼休み。
少しでも早く案内してくれようとアレルヤは、さっきから急いでお弁当を食べている。
「そんなに急がなくても別にいいよ…」
「で、でも…待たせちゃ悪いから…」
そう言いながら、アレルヤは手で口許を押さえ、何とか大きな春巻を飲み込んでる。
「でも、ゆっくり食べないと喉に詰まるし、身体にも悪いよ?」
「だ、大丈夫……っんく!」
「あぁ! ほら…」
言ってる側からミニハンバーグが喉に詰まっちゃったらしいアレルヤの背中を擦ってあげながら、僕はこっそり溜息をつく。
(本当にこんな子に案内任せて大丈夫なのかな…)
たった半日足らずの付き合いだが、見る限り彼女はとんでもない『ドジッ娘』だ。
――落としたノートを拾おうとしてペンケースをぶちまけちゃうし。
先生から渡されたプリントの束をばらまく始末。
「……そういえば、委員長って誰?」
僕の問いに、やっとハンバーグが喉を通ったアレルヤが、涙目の視線をあげた。
「委員…長…?」
「うん。 普通、こういうのって副委員長じゃなくて、委員長の仕事でしょ?」
するとアレルヤは少し困ったように眉を下げて笑った。
「そうなんだけど…ちょっと、ね」
「もしかして、この席の子?」
僕が机を目で示すと、アレルヤは首を横に振った。
「ち、違うよ! ここはその…」
アレルヤが何かを言おうとした時。
ヴーヴーヴーヴー……。
――彼女の胸元が激しく揺れ始めた。
「!?」
「あ、メールみたい。 先生には秘密ね?」
そう悪戯っぽく笑って、アレルヤが胸ポケットから取り出したのは、オレンジ色の携帯電話。
どうやらさっきの揺れは、バイブ機能のせいだったみたいだ。
アレルヤはしばらくそれを操作していたけど、急に目を大きく見開いて、酷く慌てた様子で椅子から立ち上がった。
「あ、あのクロスロード君、ちょっと用事が出来たから、少しだけ待っててくれないかな?」
「あ、うん」
「ありがと!」
それだけ言うと、アレルヤは猛ダッシュで教室を出て行った。
「……意外に足速いなぁ」
ドジっ娘の割に、意外とアレルヤの足は速かった。
「…とりあえず大人しく待ってようか」
幸い、時間はまだたっぷりある。
僕はそう思い、寛ぐように椅子に背中を預けた。
その時。
「あぁっ!? なんだてめぇは!!」
柄の悪そうな声が響き、教室が一瞬静かになる。
(なんだ…?)
僕が怪訝な顔で、教室の入口を見ると、明らかに『俺不良です!』な青髪の男子生徒がこちらの方を睨んでいた。
「見ねぇ顔だなぁ? てめぇ、何でその席に座ってやがる!?」
「え、僕!?」
てっきり他の奴に用があるとばかり思っていたその生徒は、躊躇いもなく僕の目の前まで来ると、唸るような声を上げた。
「その席はハレルヤの席だろうが!!」
「え? アレルヤの席は隣だけど…」
「ハレルヤだっつってんだろ!!」
意味が分からない。
とりあえず、目の前の男子が物凄く怒ってる事は理解した僕は、瞬時にやる事を理解した。
(とにかくここは……)
「何とか言えよコラァ!!」
胸元に伸びてくる腕を避け、僕はすぐ真横にある窓から、廊下に飛び出した。
そして、脇目も振らず走り出す。
「待てコラァアァ!!」
背後から獣の唸りのような、さっきの生徒の怒声が聞えるが、止まるわけにはいかなかった。
(止まったら、殺されそうだしっ!)
――どうやら昼休みは、悠長に学園案内されてる場合ではないらしかった。