天上の花 〜君へ〜
□ヤサシイギンイロ
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ぼんやりした気持ちのまま、教師に案内され教室に向かうと、予想通り教室のみんなはざわめいていた。
「あ、あー、みんな静かに!」
髪を後ろで結んだ、穏やかな様子の担任の先生――ビリー・カタギリが小さく咳払いをして、生徒達を宥めてくれる。
「と、いうわけで、彼が今日からクラスの一員となる沙慈・クロスロード君だ」
みんな仲良くするように、と言って、ビリー先生は僕に自己紹介をするように勧めた。
――もうこうやって何度色んな人に自己紹介してきただろう?
親の転勤で色んな学校を点々としたから、もう覚えてもない。
僕は曖昧な笑みを浮かべると、出来るだけ愛想良く口を開いた。
「沙慈・クロスロードです。よろしくお願いします」
またざわめく教室内。
苦笑したビリー先生が、僕の肩をぽんと叩く。
「学園内の事とか、分からない事があれば委員長の……」
その時、視界の端でスッと手が上がった。
「カタギリ先生」
「何だい? アレルヤ」
手を上げたのは、前から二番目の廊下側の席の、やや鋭い目付きの少女だった。
――緑がかった黒髪は左側から分けられ、その右目は長い前髪で隠れている。
切れ長の瞳の色は銀で、顔立ちは本当に怜悧な整い方。
けれど間違いなく、彼女は美少女だった。
少女は、手を上げたまま、ビリー先生に小さく笑いかける。
「先生、学園案内なら副委員長の僕がやります」
「本当かい? なら君に頼むよ」
「はい」
そう返事をした少女は、すっくと立ち上がり僕の目の前までやってきた。