御堂の中は昼間だってのに薄暗く、斎藤がどこにいるのか解らずキョロキョロとする俺に、呆れたような声がかかった。

「…俺はここだ、新八」

目が慣れてくると、御堂の奥に立っている斎藤を捉える事ができた。
ほっとして近付くと、カチャリと斎藤が刀に手をかけた。

「おい、どういうつもりだ?斎藤」

間合いに入る直前足を止め、居合いの構えを取る斎藤を睨んだ。

「…質問に答えてもらう」

「斎藤よ、刀を構えながらの問いは質問じゃねえ。詰問ってんだ。…覚えとけ」

「…俺がいない間、不貞を働いてなどいまいな?」

「………はぁ?」

至極大真面目な顔で、斎藤が口にした言葉は、俺の予想を大きく外れた内容だった。

「…先程あんたは島原に行こうとしていたのだろう。…俺がいないのを良いことに、どこぞの芸妓と姦通しているのではないのか?」

カチリと鯉口を切る音。
斎藤に殺気が漲る。

「ちょ、待て!誤解だ。俺は島原に行こうとなんかしてねえって!だいたい、こんな真っ昼間から行ってどうするってんだ?それと、お前の言ってる事の意味が分からねえ。不貞だの姦通だの、一体何なんだよ!?」

「…言葉通りの意味だ。……あんたと、お、俺は…その…こ、恋仲、なのだろう…?ならば俺以外の者と…親しく、するのは…不貞では、ないか…」

最後の方はごにょごにょと口の中で呟いたようになっちまって良く聞き取れ無かったが、斎藤は俺と恋仲だと、そう言った、よな?
俺の勘違いじゃなかったって事か?

斎藤は頬を赤らめて俺を睨み上げている。
相変わらず手は刀にかかっているが、俺にはそんな事もうどうでも良かった。

愛しい。
抱き締めたい。
口付けたい。

斎藤への恋しい想いが込み上げてきて息苦しささえ感じる。


「斎藤」

名を呼び、一歩近付く。

「…何だ?」

斎藤が構えを解く気配は無い。けど、そんな事どうだっていい。

早く触れてえ。

一歩、二歩。

手を伸ばし、そっと斎藤の頬を撫でる。

「…っ!」

斎藤はびくりと身体を強張らせたが、俺は構わず頬から顎、唇を撫でた。

ずっと触れたかった。
白くきめ細かい肌。
指を滑らせ、両手で包み込むように上を向かせる。

「斎藤」

「………」

斎藤は無言で俺を見上げた。
深い蒼色の瞳に俺が映る。
ゆっくり顔を近付け、軽く唇を吸った。

「…っ…」

ちゅ、と言う音と共に唇を離す。
目の前には、頬を染めてぎゅっと目を瞑る斎藤。

ああ、駄目だ…。

俺の中の「理性」が、ガラガラと崩壊していく音が聞こえる。

「…?…しんぱ……っ!」

うっすらと目を開けた斎藤を、後ろの壁に押し付けて、今度は強く、激しく唇を吸う。

「…んっ、…は、」

何度も角度を変え、息苦しさに開いた唇の隙間に舌を滑り込ませる。歯列をなぞり、舌を絡ませた。

「…ふ……ん…」

時折斎藤から洩れる声が、どうしようもなく俺を煽る。
刀に掛けられていた手は、いつの間にか俺の背中に回り、着物をぎゅうとキツく掴んでいた。

口付けを交わしながら、斎藤の着物の裾をはだけて、脚を絡める。
膝で内股を撫でると、びくりと身体を硬くした。

「…し、ん…ぱっ…!」

さすがに俺が何をしようとしているのか気付いたんだろう。慌てたように俺から身体を離そうとするが、体格の差が大きい上に斎藤は壁際で思うように身動きが取れない。
言葉ごと唇を奪って、肩を壁に押し付ける。
シュル、と帯を解くと、ゴトンという音と共に刀が床に落ちた。
前がはだけた長着の中に手を入れ、腰を掴んで引き寄せる。
ぎゅうと俺の腰を押し付けると、俺の変化に気付いた斎藤が抵抗を止めた。それを感じて、俺も押さえつけていた手を離す。

「…新八…」

「悪ぃ、斎藤。もう我慢出来ねえ…。…お前が好きだ…。お前と交わりてえ」

懇願するように斎藤の肩に額を乗せた。鼻腔にふわりと斎藤の匂い。
この匂いも、温もりも、次にいつ感じられるか分からねえ。
次があるのかさえ分からねえんだ。
俺達は、いつも先の見えねえ生活を続けてきた。
今日を終えられるのか、明日が来るのか、確かな事なんてありゃしねえ。
それでも。
生きてさえいれば、斎藤と自由に会えたのは共に新選組にいたからだ。

今は、違う。

今日は偶然会えた。
だが、その偶然が二度あるとは限らねえ。
もしまた偶然会ったとしても、互いに一人でいる保証もねえ。

「俺は、お前が好きなんだよ…」

呟くように洩らし、抱き締める腕に力を込めた。


ふ、と耳許で笑う気配があり、頭を上げる。
斎藤は困ったように笑って、細く骨ばった指先で俺の頬に触れた。

「…俺も、あんたが好きだ」

そう言って唇を寄せる。
そっと、触れるだけの口付け。

「斎藤…」

名を呼ぶと斎藤は俯き、こくりと無言で頷いた。






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