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森のフォーラム

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Re:短編小説
きみ
[ID:boopc410]
時刻は午後9時近く。
街灯の明かりがたよりの道を、革靴の音を響かせながら歩く人影があった。
学ランを着ていることにより、その姿は暗闇に溶け込んでいる。
ポケットに手を突っ込み、少年と呼ぶにはいささか高い背を丸くして歩く。髪の毛はポマードで固められ、リーゼントになっている。
そして、彼の顔には無数の傷があった。
「フン……」
己を嘲笑うように鼻を鳴らすと、迷いもなく一つの目的地へと歩みを進めた。


「遅いじゃない」
昼間は子供たちでいっぱいの公園内の明かりの下に、一人の少女が立っていた。
「……うるせえ」
公園に着いた途端文句を言われ、少年は彼女を睨みつけた。
しかしそれに動じないのか、彼女はツカツカと歩み寄り、彼の腕をとると明かりの下に連れていった。
「何よ、自分で呼び出したくせに……。はい、ここに座って」
未だ不満げな表情を見せながら、少女は地面にハンカチを敷くと、少年に座るように言った。
チッ、と悪態をつきつつも、彼はおとなしく座る。
彼女は持ってきた鞄から救急セットを取り出し、黙々と傷の手当てを始めた。

「……おい」

少年はそっぽを向きながら、ぽつりと独り言のように治療中の少女に声をかけた。
「何?」
「寒くねーのか、そんな格好で」
彼の言う“そんな格好”というのは、彼女が着ているワンピースのことだ。昼間ならいいが、夜だとまだ肌寒いだろう。
それに、よく見ると髪や鞄、靴もばっちり決めている。そこまで彼が気づいているかどうかはわからないが。
少女は服装のことを言われ、羞恥で顔を赤く染めてごまかすように噛み付いた。
「い、いーじゃない別に!今くらいかわいい服着たって……!」
「アホか」
少年はそんな彼女を一蹴し、盛大なため息とともに彼女に学ランをかけてやった。
「……ありがと」
少女は彼の態度に少し驚くも、その厚意を素直に受け取った。


手当てが終わり、会話もなくどのくらいの時が経っただろうか。
近くに時計はない。しかし彼らにはそれを知る必要がなかった。
「ねえ」
「あ?」
唐突に少女は声をかけた。

「……今度は昼間に一緒にいたいわ」

少女が先程の威勢のよさとは打って変わり、雑踏の中ならたちまち消えてしまうような声で訴えると、少年は彼女に目を向けた。
彼女は俯いている。彼には自分を押し殺しているように見えた。

「……バカヤロウ」

そう言うと、少年は少女の頭を少し雑に撫でた。少女が思わず顔を上げると、彼はすでに立ち上がり、背を向けてゆっくりと歩き始めていた。

「わかってらい。今度な」
「!うんっ」

ハンカチをしまい、急いで彼の隣に並ぶ。彼女が隣に来ると、片手をポケットから出して彼女の手をつかんだ。
じんわりとあたたかい、その優しさが心に染みた。
少女はわかっていた。
少年が、つねに自分を守ってくれていることを。

平凡な高校生活を送っている彼女にとって、喧嘩は別世界のものだった。
ヤンキーである彼にとって、喧嘩はすべてだった。

一緒にいるところを見つかれば、きっと標的になる。
だから彼はいつも、どこかの公衆電話から彼女の自宅に電話をかける。
夜だけが、唯一の彼らの逢瀬の時間だった。

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