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Re:短編小説
美里
[ID:want2love]
【近未来】
しっとりと服を濡らす汗が、空調の効いた室内ではひんやりと身体を冷やす。隣にいる彼女はアイスドリンクのストローで氷をひたすら回している。
ライブ後だった。下手とセンターの間にいたので話すのはイケメンボーカルとテクニシャンベースのことばかりだった。話があるといわれ、なだれ込むように入ったのは24時間営業のファストフード店。カウンター席を選び、横顔だけを眺めるようにしたのは一種の保険である。
「私さ、学校辞めるかも」
いつもと変わらぬ声音とリズム。決断はもうしたのだろう。
私たちの学校は単位制なので、教科によるが単位を落とすと下の学年と一緒の授業で取り直さなければいけない。大学ではよくある話だろうが、高校では好奇の目に晒されるだろう。
「なんで?」
覚悟はしていたし、理解もするつもりだった。けれど、やっぱり寂しい。
出席が足りず単位も落とし、学校にも来れない。苦痛を名も顔も知らない人達にしか漏らせない臆病な人。彼女が心に受けた傷の全てを私は知ることができない。物理的に無理な壁を、どうやって突破すればいいのか。
綺麗にお化粧した顔が伏せたつけまつげを強調させる。
なんだ、そんな表情もできるんじゃん。いつも笑いしかしないから、気付けないんだよ。
「私、やっぱ歌いたい」
かちゃん、と音を立ててストローで混ぜる行為を終えた。真正面の白い壁を見つめながら彼女は薄く微笑んだ。
「歌ってないと生きてないような気がするんだ」
だから、音楽に的をしぼる。そういってまた笑った。
そんなの、妄想だ。そういってしまえればどれだけ楽か。高校も出ないでその道を歩み成功した人なんて数少ないどころじゃない。多くは理想と現実に板挟みされ、死んでいく。
彼女はボーカルだ。歌うことにより自己同一性を確立させる。それに精神に闇を抱える彼女に、あまり強いことは言えない。
逃げてるよ、あんた、なんて言えたらどれだけ楽か。なんであんたメンヘラなの?なんであんたボーカルなの?絶対に言えないけど、どちらかがなければ彼女は学校を辞めるなんてことにはならなかったはずだ。苦痛から逃げる道を生き甲斐にはしてほしくない。
私たちが見つめるこの白い壁は人生だろう。別々の絵を描いていく。彼女はそこに五線譜を刻むことに決めた。一言で言えばそれだけ。でもやっぱり一緒に卒業して、大学になってもたまに遊ぶ仲にはなりたかった。
逃げてる。わかってる。だけど理解できない第三の要因があるような気がして、卒業という言葉が喉を越えない。
「……そっかぁ」
ごめんね、弱くてごめんね。
他人事だからと逃げる私がいるよ。綺麗なさよならをしたくて荒らしたくない私がいるよ。
「うん、ごめんね」
泣きそうになりながらも私と彼女はまた笑った。その強さを別の方面に向けることができれば、この結果は覆せたかもしれない。
二人が並んで作った憂鬱は、ゆっくりと互いの胸に影を落とすでしょう。糧とごまかして笑っても、それは失敗であり変えることができないのです。
もし向かい合って話すことができたら、彼女を殴ってでも止めただろうか。正解のない問いを正面から受け止めることを決断できただろうか。
今もわからない。どうすればよかったの。
*fin*
もうどうすればいいのか。
友達なんて雑で適当な境界線ですよ。
完全なるお目汚し、すみませんでした。
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