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森のフォーラム

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Re:短編小説
虎縞
[ID:tigerhalfowl]

 =厳寒の夜の直中=

 寒かった。そして暗かった。
 暗かったが真っ暗闇というわけではなく、幾百万とも見当がつかない、夥しい数の星々が夜空一面にばらまかれた拍子に放った光と、銀色の月が凍てついた天心で透明な光を纏い振り撒きながらひらひらと舞い踊っていた。地表にはつい昼間まで降り続いていた真新しい雪が積もり、微かな光を照り返し光っていた。だから、寒くて暗いが、一歩とて歩めない程の真っ暗闇ではなかった。周囲には樹が立っているのが幾つかあるだけで、動くものは僕しかなかった。鹿も熊も狼もいなかった。先導させた僕の犬も、吠え声一つさせなかった。彼も、随分先に行ってしまったらしい。雪を掻き分けて行く気配も無かった。銀色に光る雪原に、一人だった。
 静かな夜だった。寒さ故か静さ故にか解らない程、耳が痛くなる音の無い夜だった。僕がする呼吸の音と、僕自身の鼓動と雪を踏みしめる、ぎゅ、ぎゅ、という靴の裏から浮かぶ感触を伴った音と、引っ張るソリの音だけが音だった。あんまりにも寒くて、体の真芯以外の感覚が無くなり、ソリを繋いだロープを握り締めた手袋の中の感覚も、無かった。肺腑の中が、凍った空気で犯し尽くされ吐く息にも色が着かなくなった。もう、吸った空気を温める体温も僕には無かった。
 ソリに載せたタンクの中の牛乳が揺れる音がした。揺れるたびに、ソリはコントロールを一瞬失う。気温はとうに氷点下以下だったが、揺れている牛乳は凍る事がなかった。
 音の無い雪原を、ソリを引き引き、ただただ歩いて、ふと石を投げる音がすると思った。
 一歩一歩踏み進むと、僕の犬の声だと気が付いてほっとした。ついに鼓膜まで凍って、聞こえもしない音が聞こえたのかと思ってしまった。
 ぎゅ、ぎゅ、と進むと、灯りが見え、犬が戻って来てロープを引く手伝いをしてくれた。
「クナシャ、クナシャ!お疲れさん!」
 煌々と明るい火を持ったワハが僕を出迎えた。火は眩しく、ワハの声は無意味に五月蝿く聞こえた。更には、クナシャ、というのが僕の名前だというのも束の間理解出来なかった。
「お前もウーナも、早く中に入れよ。ホット・ミルクを作るぜ」
 足元のウーナが、腹に付いた雪を振るい落として、ワン、と吠えた。


…………………………
最近寒いね、と思って、超寒い話を。無国籍系で!
宮沢賢治が好きです。難しいな、あの空気感。

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