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Re:短編小説
桜
[ID:sakutyan]
また参加させてくださいませ。
スレ主様の文章、綺麗で素敵です!
今回の投稿は本職で書いてみましたので、気分を害されたら申し訳ございませんm(_ _)m
「私の彼氏」
「てめぇ、調子こいてんじゃねぇぞ!」
怒気を含んだ男の声が、周囲に木霊した。
愛華は肩を怒らせにじみ寄る男を、臆することなく睨み据えた。
事の発端は些細なことであった。
ぶらぶらと街を歩いていた愛華に声をかけてきた男がしつこかった為、思わず平手打ちをかましてしまったのであった。
まして、髪をキンキンに染め、いかにもいかにもホストでございますといった男の姿に、悪寒が走るようであった。
自分に落とせない女などいないといった勘違い野郎は、愛華にとって決して許されない人種であった。
「聞いてんのか?」
男がおもむろに愛華の肩を掴もうとした瞬間、愛華の体が男の視界から消えていた。
愛華は右足を後方に引き、硬く握られた右拳は鳩尾の前に置かれ、左拳は相手を威嚇するように突き出された空手の双手といわれる構えを取っていた。
「ざけんな!」
叫びざまに男の右腕が空を裂き、愛華の顔面に打ち下ろすような軌道で拳が迫る。
「はっ!」
愛華は軽く息を洩らし、左手のひらで男の拳を内側に弾いた瞬間、愛華の右腕がうなりをあげた。
「せい!」
背中まで伸ばされた栗色の髪がさらりと靡いたかと思うと、上半身ごと相手に突き刺すような右正拳突きが、男の鳩尾にめり込んだ。
「お、ごぉ――」
男は一瞬息を詰まらせ、下腹を両手で押さえ前傾に体を仰け反らせた。
男の動きが止まったことをみるや、愛華の右足は硬いアスファルトを蹴っていた。
ふわりとプリーツスカートが膨らむと、愛華の右足は大きな弧を描き、男の左側頭部を叩いた。
「がっ――」
何かを言いかけたのか、それとも苦悶の叫びか。男の体は力なく冷たいアスファルトに沈んでいった。
その瞬間、愛華の中で形容しがたいほどの虚しさが胸中に渦巻いた。
静かに構えを解いた愛華は、暫し足元に転がる男を冷ややかに見下ろし、そして呟いた。
「あたしの彼氏は――空手だから」
愛華は男にそう言い置くと、踵を返し溢れる街の人波に紛れていった。
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