ZZZ.

□「安心って何だろう」
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私が思うに、ですね。


自宅というのは外で何やかんやと疲れた身体と心を癒す、個人のスペースなわけですよ。
特に一人暮らしの社会人にとって見れば、もう正直自宅っていうのは聖域にも近いわけです。
繁忙期の金曜日の夜、仕事を終えて帰宅した私にしたら、本当自宅ってのは来週への鋭気を養うための心安らぐ場なんですよ。


「だってのに、いつまで粘ってんのよ、ぉっ…!!」

「てっめ、わざわざ家抜け出して会いに来てやってんのに新聞の勧誘断るみてェに閉め出すんじゃねェ!」

「別に頼んでないし、アンタがドアに足挟むからでしょォッ…!!」


ギシギシと軋む鉄製の扉を挟んで、罵り合いの力比べ。
正直勝てる要素は万に一つもない、それは男女差とかそういうものを考慮せずともである。

扉の向こうにいるのは高校からの腐れ縁が拗れに拗れて、どういう訳かいつの間にか恋人になった男、ジャギ。この辺りじゃ有名なお寺の三男坊で、いわゆる札付きの不良だった。
今でこそ年相応には落ち着いて鳶職として働いているが、高校の頃の自分が今こんな感じではあっても彼と交際しているなんて知ったら卒倒するだろうなと思う。


「だい、たいっ!『抜け出して会いに来た』じゃなくて『門限すぎて帰れないから泊めろ』でしょオがっ!」

「うるせぇ、今月3回目でもう後がねぇんだよ!分かってんなら開けろ!!」

「アンタが悪いんじゃないのっ…!一番上のお兄さんにメールするわよ?!」


ポケットからケータイを取り出してみせると明らかにジャギが狼狽する。


「おっ、おい!なんでお前が兄者のメルアド知ってんだ!!やめろ!」


ガチャンッと派手な音を立てて(ちくしょう、馬鹿力め)、見せかけの均衡を保っていた力比べが終わる。
それにしたって黒のフルフェイスに黒のライダース、そんな出で立ちの筋骨たくましい男が一人暮らしの女の部屋のドアをこじ開けようとしてるんだから近所の人が様子を見に来てくれたっていいんじゃないか…。
呆然とそんなことを考えていると、ガサリとコンビニの袋が目の前に突き出された。


「オラ、飲もうぜ。」

「…あのね」


疲れてるんだけどと言うより早く、ジャギは私の手からケータイを取り上げながら靴を脱ぎズカズカと部屋に上がりこんでいく。ケータイを取り上げる必要があるのかとその背を見送っていると、どうやらお兄さんのアドレスを消しているらしい。まぁ、手帳に控えてあるけれど。


「おい、何ボケッとしてやがる」


ヘルメットを脱ぎ我が物顔でドッカリとベットに腰を下ろしたジャギは、トントンと自分の隣を示す。

酌しろってか。


「あのねジャギ、私ホントに疲れてるんだけど」

「別に酌しろとか言ってねぇだろ。いいから来い。」


手招きされて、仕方なくベットに向かう。何せ機嫌を損ねればそれはそれで面倒な男なのだ。
しかし隣に腰を下ろすより早く、ジャギの腕が伸びてきて彼の膝の上に引き込まれた。


「ちょ、っと…。座り心地最悪なんだけど」

「うるせぇ、大人しくしとけ」


言われなくても、肩には頭が乗っかってるし腹には太い腕が巻き付いている。暴れようにも、できて精々足をばたつかせる程度だろう。
どうしようもない。


「勝手なんだから」


諦めと同時に、眠気がやってきた。
あぁ、もう、色々やりたいことややらなきゃいけないことがあったのに。


(休むにはまだ…、だっていろいろ…)


トロリと意識が沈む寸前、「ゆっくり休め」なんて、きっと空耳ね。










「安心って何だろう」
(仕事の合間のコーヒー、帰宅した時に感じる自宅の匂い、恋人の体温)
(目が覚めたら、文句の一つも言って朝食を作ろう)

配布元:診断メーカー「ふたりへのお題ったー」様

 

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