ぷよぷよと、

□心の距離
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『うっわ、凄い寒い。』


中に入っての一発目の本音は、とても寒かった。
冷たい風は勿論私たち目掛けて来るのだが、それよりも雰囲気そのものが冷たい事に気がいった。

しかも、かなり暗い。
外は明るかったのに、まるで日光を嫌うかのように一筋たりとも射していなかった。


蔓とか草類は生えてるんだけどな。
うん、気味悪いぐらい。此処は廃墟となった洋館か。と思いっきりツッコミを入れたいぐらいだ。ところが、そう簡単にツッコめない。相手が大きすぎるからね。



「あ、そうだ未来にこれをあげるよ」

不穏な空気を遮ってくれたアルルが、どこから出したのかツッコミ抜群の可愛いらしい飴をくれた。


『これは……?』

「ボク特製の魔力がつまった飴だよ!!カレー味なんだ!」

『成程、というかカレー……味?』

その味のチョイスは微妙だ。というか斬新だなあ。
私はどちらかと言うと、いちご味の方が嬉しい。が、そんなことは言えない。なぜなら、魔力がつまった飴をわざわざ作ってくれたからね。

「うん!」

『ありがとう、危ない時食べるよ。』

「アルル、俺には当然くれるんだよな」

「誰が変態にあげるもんか!」

「まあ、そう照れんでもいい。俺の分はこいつに渡しておけ。」

「な、ナルシストシェゾ!!未来、これシェゾの分なんだけども、あげるよっ!」

『う、うん……?』


シェゾはナルシストなんだな。いやでも、かっこいいから、ナルシストでもまだ許せるほうかもしれない。って今私、シェゾの事かっこいいとか思っちゃったよ!!やばいやばい、また始まったよ私のいつのまにか妄想。シェゾはかっこいいけどかっこよくない!ってまたかっこいいとか……!!



『うわぇっ!』


どこかで聞いた事のある、何とも色気のない悲鳴。このパターンからでいくと、私が出したんだね。ああ知ってますよ、どーせ私は色気ないですよーだ。


―だが、こんな悲鳴でも感謝する事はある。
何故か。それは私も最初は認識が出来なかったが、時が経つにつれて自分の感覚や行動も嫌というぐらいはっきりと認識出来るようになる。


そう、まさに私はシェゾの懐に突っ込んだ状態だ。紳士なのかシェゾは、と問いたくなるぐらい見事にシェゾがその逞しい腕で支えてくれた。

自分の顔が赤い事は、十分理解できる。
こういう時、馬鹿な思考回路が十分に発揮できたらどんなに救われたか。

いやまて、次にどんな言葉を発したらいいかが問題だ。「やだ、ごめんなさい」とか?「シェゾの体って逞しいね」とか……って、全部無しだ無し!!特に後者とかありえねえよ!自分の乙女さに腹が立ってきたわ。


「お、おい……いい加減離してくれないか?」


人間は追いつめられると声が発せないようで。……え?お前だけだって?いやいや、私の場合は本当に声が出せないからね。

というか、痛いほど視線を感じるよ。上からも横からも。あ、まって。このまま顔を動かしたら私が顔赤いのがばれちゃうよね。ど、どうすればいいの!?


「未来……、未来?大丈夫?おーい」


いや、本当にどうしよう?
手でシェゾの服を掴んでいる事は知ってる。
そうだ、まずこれから離そう。


「おい、大丈夫か?……」


シェゾが私を一旦離してくれたおかげで、下を向いて歩く事に成功した。……それにしても、まったく、誰なんだ。私を恥ずかしめに晒した奴は。


そう思いつつ、私は後ろを見る。そして目線は足元へ。



『…ぁ』



そこには淡青色に光る石があった。
思わずため息にも似た声を漏らしてしまうほどに。
何故私たちはこれに気付かなかったのだろうか?こんなにも綺麗な物を見逃してしまうなんて。


『これ見て!すっごく綺麗だよ』


私の顔の熱はいつの間にかひいて、いつもの顔色に戻っていた。ありがとう、宝石のようなもの。

……って、シェゾに抱きつかせたそいつに何お礼言ってるんだよ私。


「わぁ、すごい!ボク全然気付かなかったよ!」

「俺とした事が……」

確かにシェゾが見逃すなんてびっくりだ。
こういうものには目が無さそうなのにね。


『これ、持っていこうよ!!何かに使えるかもよ?』

「ボクもさんせーい!」


「ああ。お前に先に見つけられたのは悔しいが……お前がいきなりあんな事をするからな?」



ははっ、天然ドSか、おいコラ。
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