ぷよぷよと、

□貴方に
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「俺は、」


俺は?
何故か彼―シェゾは、一息つく。

何か、私に言いにくい言葉でもあるのだろうか?
彼は私の曇った表情を無視するかの様に、口を開く。


唇が動く。彼の眼が、より一層目力を強くなる。


「―俺は、お前が欲しい!!!」



時が、やけに長く感じた。……ああ、この部屋には、シェゾしか分からない気配のする人間がいるんだね。そうだ、そうだよ。絶対、うん。じゃないと、人に向かってこんなセリフ言わないよね、うん。はは、シェゾ、なに人前で恥ずかしいセリフを言ってんだよ。あー、怖い怖い。……怖、い?

……そう、怖い。だって、だって彼の双眸は、こちらに向いている。ありがた迷惑な、力強い青眼で。


つまり、私の方に向かって今の恥ずかしすぎる台詞を言ったと?うん、ありえない。ていうか、ありえたくない。
何なんだよ、私の顔がトマトみたいに赤くなってきたよ?どうして?


……勿論、頭のなかで状況を理解したから。シェゾが私に向かって「お前が欲しい」なんて言ったから。



「ち、違う!!…今のは、その、一部が抜けていただけであって……」

シェゾも顔を赤くして、顔がトマトになって固まった私を見て、必死に弁解をした。……が、そんなのは今の私に聞こえる筈がない。シェゾの弁解は、段々声が小さくか細くなっていき、ついには聞こえなくなった。



「……」

『……』


妙な沈黙が立ち尽くす二人を飲み込む。……それを遮るかの様に、目の前の整った唇が開く。


「……その、つ、つまりだな。俺は、お前の中の魔力が欲しい、ということだっ!」

宣言をするかのような口調。
はて、「魔力」とは、どういった意味なんだ?初めて聞いたとは言わないけど、実際のところ私の中にシェゾの言う魔力はないと思う。そんなこと知らないし、あるなんて知らない。

『私には、魔力なんてないと思いますよ』

銀髪の青眼は、少し驚いた表情をする。
だって、あるわけないでしょ、そんなもん。うん、そうだ。絶対そうだ。
あったとしたら、それは夢の中の夢だ。頬をつねったら、絶対悪夢から目覚める。


「……」


その次は私を観察するような目付きに変わった。体の隅々まで見られると、体に虫酸が走ったような感覚にとらわれた。


「お前の中には、不思議な魔力がある。だから、俺はお前を助けた。
だから、俺にその魔力をよこせ。」


……いやいや、この人不思議な発言多いよ。本当に。
何で私が魔力を持ってるの?
何で私の魔力なの?
おっかしいだろぉぉぉぉぉいッ!!!!

こんな可愛いげのない女子を、知恵熱にさせようとして楽しいのか?

憤り、呆れ、今の感情を表すとこれがぴったりだ。だけど、あえてそんな感情は顔に出さない。だって、またややこしくなってしまうと、嫌だ。
これ以上シェゾと関わると、私は彼から離れられなくなりそう。そんな無責任なカンが訴える。


『私は、知らない。本当になにも知らないですから。』

そうすることで、私と彼の間に線を引いた。溝を作るための、偽物の線。


これから行く宛もない。
もとの世界に戻るための方法も分からない。

だけど、この部屋の扉を開けなくちゃいけない。


開けなきゃ、ドアのぶに重い手を置く。
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