Story〜M

□03
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―――あれ?
心の深い所から湧いて出た疑問は、水面にできた波紋のようにじわじわと全身に広がる。
―――なんで…。
会話ができるようになってから、黄瀬は疑問を口にした。
「なんで俺、青峰っちとキスとかしてるんスかね…?」
いつも通りに青峰と遅くまで1on1して、着替え終わってからもベンチに座ってだらだらと談笑して、ちょっと上手くなったと言われて浮かれた気分になって、不意に沈黙が落ちたら自然と顔が近付いて。あまりにも自然にキスをするから、疑問を抱くまでにえらい時間がかかった。
今更とも言える問いに、青峰は首を傾げた。
「…気持ちいいからじゃね?」
「気持ちいい…」
「良くねぇ?」
「いや、良い…けど…」
肯定すると笑いの形をした唇がもう一度近付く。拒む理由が思い付かなくて、触れ合うのを受け入れた。
数回の軽い接触の後、口を開いて重なりを深くする。
互いの舌と唾液を混ぜ合えば濡れた音がする。
回数をこなしたせいか、羞恥心はほぼ無い。代わりに力の抜けるような心地好さがある。
青峰の言う通り、気持ちいいのだと思う。しかし、疑問は消えてくれずにちくちくと良心を刺す。
気持ち良ければいいのか。いや、よくない。すごくよくないことをしている気がする。
黄瀬は勢いよく体を引き離した。
「いきなりなに…」
「帰るっス!」
青峰の文句は聞かずに立ち上がる。
早くここを離れなければ。また、流されてしまう。
「待てよ」
焦りばかりが先行していた黄瀬は、青峰に腕を引かれてバランスを崩した。
「わ…っ」
「っおい!」
体勢を立て直すことはできず、倒れ込んだ先は青峰の腕の中だった。
「…なにしてんだ、お前」
「ごめ…」
謝ろうとして、固まる。
密着することで、青峰の変化に気付いてしまった。主に、下半身のあたりの。
「…青峰っちがなにしてんスか」
「あ?気持ち良けりゃ当然だろ」
「そんな…」
唖然と開いた口をまた塞がれる。片腕で腰を、もう片方で首の後ろを掴まれて深く貪られる。
「ん、んぅ…」
青峰も気持ち良いのだと自覚してしまうと、急に恥ずかしくなった。
でも青峰の胸についた手に力は入らない。すがるように服を掴むだけしかできない。
酸欠でくらくらしてきた頃、ようやく首が解放された。
「っは……あおみね、っち…?」
動作不良の頭では、ボタンを外されているという事実は認識できでも、そこからどうしようという考えは湧かなかった。
「…ぁ…」
胸の色付いている部分を指の腹で撫でられる。
気持ち良い、わけではないと思う。多分自分は雰囲気に酔わされているだけで。
「ん…あっ…」
首筋をゆっくり舐め上げられると肌が粟立った。
青峰に触られていると思えば、体は熱くなる。息が上がる。
興奮を悟られるのが恥ずかしくて引いた腰を戻され、青峰の手は容赦なくそこに触れた。
「あっ…や、だ…!」
「こら、逃げんな」
「嫌だって…!あおみ……あっ!」
業を煮やした青峰が、暴れる黄瀬をベンチに押し倒す。
痛みと衝撃に閉じた目を開いた黄瀬は、自分の上に跨がる青峰の、酷薄につり上がる口元を見た。
「ひ…」
黄瀬は両腕で青峰の体を押した。
「酷いっス!このレイプ魔!」
「おーおー、なんとでも言え」
不利すぎるこの体勢では抵抗らしい抵抗はできない。唯一可能だった言葉での反抗すらも、この暴君は塞いでしまう。
「んー!んん!」
口付けたまま器用にベルトを外される。
下着の中に侵入した手にそこを直に握られると、体が跳ねた。
「んん!んー…っは」
既に立ち上がっているものに指を絡められる。すぐにいやらしい水音が耳を刺した。
「っや…あ、やだ…っ」
恥ずかしいと気持ち良いが自分の中でせめぎ合う。青峰が手を動かす速度を早めれば、後者が前者を圧倒し始める。
「あ…青峰っち、も…だめっ…」
「ああ、イク?」
どうぞ?とばかりに微笑まれる。
悔しいのに、罵倒する余裕など微塵もない。体内の熱を抑えられない。
「あっ…や、あ…ああ―――っ!」
青峰にしがみついて、黄瀬は熱を吐き出した。


重い腕を持ち上げて、もたもたとボタンをつける。深く吐いたため息にも、相当の重量があった気がする。
なんやかんやでいつも、自分は青峰を受け入れてしまう。なんで。
「なんで俺、青峰っちと気持ち良いこととかしてるんスかね…?」
隣で着替えを待っててくれている、中途半端な優しさを持った暴君に尋ねる。
「…仕事のためじゃね?」
「仕事…」
―――じゃあ青峰っちは?
当然出るべき問いは何故か口にするのは阻まれて。
訊くことはできなかった。


2012/12/15

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