Story〜M

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着替え途中の青峰の横に買ったばかりの飲み物を置くと、青峰は手を止めて片眉を上げた。
「…珍しいじゃん」
「お礼」
「1on1の?」
「…こてんぱんにされてお礼言えるほど人間できてないっス」
撮影の、と言っても青峰は何のことだか分からない顔をしている。
「キスのやつ」
「…ああ、キスでエロ顔、だっけ?」
「なんか違うけどいいっス。それで」
ふーん、と青峰は薄く笑いながら飲み物を手にする。
「撮影、上手くいったのか」
「やっとオッケーもらえたっス。で、もしかしたらそれは青峰っちのおかげかもしれないから、お礼」
そっぽを向いたまま投げやりに告げる様はお礼と呼ぶには相応しくない態度だった。しかし、赤い横顔を見れば、そんなことはどうでもよくなる。
青峰は笑みを濃くした。
「礼なら撮った写真をくれ」
「だ、誰が…!」
「ああ、わざわざ写真を貰わなくても、雑誌を買えばいいわけか」
「駄目!」
間髪入れずに拒否した黄瀬は見るからに必死だった。
「なんで?」
「…『俺とのキスを思い出してこんな顔してやがんのか、うへへ』ってするから」
「それが何か問題でも?」
「するんスか!否定してよ!」
わーん、と嘆く黄瀬を横目に、青峰は飲み物をあおることで笑い出しそうな口元を隠した。
「…そんなに嫌なのかよ」
「ヤダ。写真見られるくらいなら実物の方がマシっス」
「へー…」
楽しげに上がった青峰の口端を見て、黄瀬は己の失言を知った。しかしもう遅かった。
「言ったな?じゃあ実物を見せてもらおうか」
「…なんて。冗談っスよ?」
「冗談、ね」
予想外に青峰はあっさりと引き下がる。だがもちろん、安心するには早かった。
「じゃあ雑誌買うわ。実用と保存用に2冊」
「どこのマニアっスか!」
ファンの子でも2冊買いなんてそうそうしない。
なんて恐ろしいことを…!と戦く黄瀬に、青峰は視線で問う。どうする?と。
雑誌の購入で何かを失うのは青峰の方だ。労力とお金の他に、もっと大事なものを失う。確実に失う。
それなのに。
「…ヤメテクダサイ」
白旗を上げたのは黄瀬の方だった。
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