Story〜L

□悪夢
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―――黄瀬は必ず俺の元に戻る。
電話口で青峰はそう告げた。
反論などできないそれは、断言だった。
なぜ言い切れるのか分からない。分からないから怖い。
期日のない死刑宣告のようだ。
「火神っち?」
隣で丸くなっていた黄瀬が顔をあげる。
「…眠れない?」
金の瞳が穏やかに微笑む。それだけで苦しくなる。泣きそうになる。こんなにも好きなんだと叫びたくなる。
「…好きだって、言ってくれ」
抱き締めると、耳の下で笑い声を感じた。
「俺みたいなこと言うんスね」
黄瀬の腕が火神の背に回る。
「好きだよ」
歌うように黄瀬は囁く。
「大好き」
笑って火神に口付ける。
幸せなんだと、言い聞かせるように実感する。
唇を重ね直しながら、黄瀬は火神の服に手を潜らせる。
「…っおい」
胸元に滑った手を捕まえると、黄瀬は悪戯が見つかった子供の顔で笑う。
「ダメ?」
黄瀬のおねだりは常だけれども、今日は受け入れられなかった。
「まだ怪我良くなってねーだろ」
「平気っスよ、もー。火神っちは心配性っスね」
ひらひらと動く左腕は、未だに包帯に包まれているというのに。
「…じゃあキスも、ダメ?」
上目遣いで窺われて、撥ね付ける意志が消え去る。
首の後ろを引き寄せると、黄瀬は嬉しそうに目を閉じた。
啄むようなキスでは我慢できないとばかりに、黄瀬は強引なくらいに重なりを深くする。
唇を食みながら、黄瀬が体を起こす。火神の上に乗って、舌を絡めて軽く吸い上げる。
長く求め合い、ようやく離れた唇は銀糸を引いた。
上体を起こしながら黄瀬は口を拭う。濡れた赤い唇に白く長い指が触れる様はやけに扇情的で、火神は息を飲んだ。
「火神っち」
指の下から蠱惑的な笑みが覗く。
衝動的に腕を引き、体勢を入れ換えた。
「…たち悪いな、お前」
苦々しく呟くと、楽しそうに黄瀬は笑った。


「…っあ…あぁ…ん…っ!」
火神の突き上げに、黄瀬は喉を反らして甘く声をあげる。
「あっ…イイ…っもっと…!」
火神の腰に足を絡めて、貪欲なまでに快楽を貪る。
情欲に溶けた瞳。上気した白い肌。
乱れる黄瀬は恐ろしいまでに綺麗で。
もっと、を求めずにはいられないのは火神も同じだった。
「っああぁ!」
無理に体を折って、奥を穿つ。
黄瀬の体がビクビクと跳ねる。
それでもその声は快さだけを伝える。
乱暴な程の扱いを受けても、黄瀬はそれを快楽として受け入れ、悦ぶ。
―――こんな体にしたのは誰か。
不意に湧いた問いに、心が凍った。
「…かがみ…っち…?」
動きを止めた火神に、黄瀬が怪訝な顔をする。
考えないようにしていたことは、一度封を切ってしまえば止まらなくなった。
黄瀬は、青峰の前で、どんな風に乱れるのか。
―――忠告してやるよ。
機械越しの青峰の声がする。
「っああ…ん…!」
不意打ちで突き上げると、黄瀬は喉を反らす。その首は白く、匂い立つほどに艶かしい。
―――黄瀬に深入りするな。
激しい縺れ合いに解けかかっている包帯からは誘うような甘い血の香りがする。
この衝動はどこから湧いてくるのだろうか。
―――壊されたくなければな。
晒された黄瀬の首に手をかける。
例えばこのまま力を込めたとしても、黄瀬は笑って目を閉じるのだろう。
なんて酷い、悪夢だ。



2012/11/14


満足したらいつでも逃亡できるようにと一話完結を意識してきました。
ここで終えるのが一番自然かと思っているのですが、意味分からないですかね。
意味分からないですよね…。

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