Story〜L

□記憶
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幸せな記憶があるから動けなくなる。
「…っぁ…!」
乱暴に部室のロッカーに押さえつけられて息が詰まる。
「あおみ…っ!」
噛みつくようなキス、は決して比喩ではない。口内に広がる血の匂いに吐き気がする。
キス一つで照れて笑い合ってた頃を思い出と呼ぶにはまだ早いのに。
「…っく…ん…」
無骨な指が口内を掻き回す。切れた唇がひりひりと痛む。
青峰は手早く黄瀬の下だけを脱がせると、唾液の絡んだ指を中に挿れた。
「いっ!…や…っ!」
心も体も無理だと訴える。
こんな一方的なのは嫌なのだと。
それでも青峰は無理やり抉じ開けようとする。
「やっ…だ!嫌…っ!」
首を振り、両手で青峰を拒む。
「黄瀬…」
静かな声に黄瀬は動きを止める。
名前を呼ぶ声は変わっていないのに、その口元は残酷な笑みを刻む。
「なにが嫌なんだよ。なぁ…?」
「っあ!」
ぐっと更に指を押し込まれて体が跳ねる。
青峰は唇の傷をゆっくりと舐めた。
「黄瀬」
名前を呼ばれるのが好きだった。
その笑顔が好きだった。
なのに今は恐怖しかない。
「…あ…ああぁっ!」
抵抗を忘れた一瞬の隙をついて青峰が欲望を突き立てる。
受け入れる準備など出来ていない体は引き裂かれる痛みに震えた。
「痛っ…嫌だ…嫌…っ!」
暴力から逃れようとする腕を掴んで、青峰は黄瀬の体を反転させた。
「なに言ってんだ、黄瀬」
くくっと低い笑いが黄瀬の肩口に落ちる。
「お前、俺が好きだろ?」
ビクリと黄瀬の体が震える。
青峰は一度抜いたものを今度は背後から押し挿れた。
「っあ!…あぁっ…や…!」
さっきよりも自然な体勢になったことで青峰の動きには容赦がなくなる。
黄瀬はロッカーについた腕に顔を伏せ、体内を掻き回される感覚に耐えた。
「…は…あっ…ぁん…」
逃れられないならせめて快楽を探そうと青峰の動きに集中したとき、青峰の手がシャツのボタンに触れた。
青峰がシャツを脱がすのは、愛撫のためではない。
「っ!…青峰っち…やだ…」
恐怖に青ざめながら振り返る。
それでも青峰はシャツを引き下げると露になったそのうなじに思い切り、噛み付いた。
「っあああぁ―!!」
焼け付くような激痛に涙が溢れる。
立っていられずずるずると崩れ落ちると肩を捕まれ、床に引き倒された。
荒い呼吸音と心臓の音が煩い。
滲んだ視界に薄く笑う青峰が映る。
血で汚れた口元にぼんやりと手を伸ばし、それが自分の血だと気付く。
「黄瀬」
無防備な腕は容易に捕らえられ、柔らかい内側の肉に新たな傷が刻まれる。
「っつ!…は…ぁ」
笑いを含んだ息が傷口にかかる。
「なぁ、黄瀬」
傷付けられても。なぶられても。犯されても。
「それでも、俺が好きだろ?」
呪いのように繰り返し青峰は口にするから。
引き裂かれた体よりも先に心が壊れそうだった。


恋とは痛いものですか?
これ程までに苦しいものですか?

誰か、教えてください。


2012/11/08

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