Story〜L

□雨
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泣き叫ぶように酷い雨だった。
火神は開けられた体育館のドアから、けぶる外界を見つめていた。
「…最近黄瀬くん見ませんね」
「いきなり出てきて見透かしたこと言うな」
相変わらず黒子には気配がない。そして相変わらず、鋭い。
「ケンカでもしました?」
「そんなんじゃねぇよ」
じゃあどんななのか、火神にもよく分からなかった。
なぜ、黄瀬は姿を見せなくなったのか。
「連絡先教えましょうか?」
「いらねぇよ」
断りながら、黒子を見る。
黒子は黄瀬の連絡先を知っている。当然だ。中学からの付き合いなのだから。
ならば黒子はどこまで知っているのか、聞きたくなった。
「黄瀬と青峰のこと、お前は知ってんのか?」
黒子の目は地に落ちた雨を追う。
「…黄瀬くんは何て?」
「付き合ってた、って」
「そうですか…」
長い話になります、と前置きをしてから、黒子は静かに語り出した。
「はじめはとても仲が良かったんです。黄瀬くんは毎日毎日青峰くんに1on1をねだって、青峰くんも楽しそうにそれに応えて。そうですね…今の火神くんと黄瀬くんの関係に似ています」
構って、と笑う甘え上手の犬を思い出す。
「…二人の関係がおかしくなったのは、青峰くんの能力が開花し始めた辺りでした。バスケへの不満を、青峰くんは黄瀬くんにぶつけ始めました」
黒子は体の横に下がっていた手を握る。
「黄瀬くんが付き合っていたと言うのなら、恋愛感情はあったのかもしれません。でも僕にはあれは―――凌辱にしか見えなかった」
凌辱。聞き慣れない言葉に火神の心臓が冷たく脈打つ。
「血が滲むくらい噛まれて、爪を立てられて、何度も手当てをしてきました。練習中に倒れる姿も見てきました」
語る黒子は彼らしくなく、瞳に感情を露にする。
「あんなものは、恋じゃない」
強く言い切り、黒子は力を抜いた。
「…だから、黄瀬くんに優しくしてあげてください。火神くんの優しさはきっと、救いになります」
優しく、そう黒子に言われるのは二回目だ。
言うだけ言って去ろうとする黒子の背に、火神は声をかけた。
「あいつの連絡先、教えろ」
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