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□無神家
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「貴方って本当に頭がいいのね」
ある日の午後、ソファで本を読んでいる彼を観察しながら私は言った。
自分の家だというのに、足を投げ出すことも無く浅く腰かけているその姿は美しく均整がとれていた。
「突然何を言い出すんだ、お前は」
誉めたって言うのにちっとも嬉しそうじゃないルキの表情はむしろ怪訝そうな様子で、何か探られているような気持ちになった。
この感覚にはいつまでたっても慣れない。
「別に何もないけど。ただルキは頭が良いと本当に感心しただけ」
だってこうして話している今でも、貴方の思考は常にフル回転なわけで。
きっと私が次に何を言い出すか、なんてことを予想でもしてるんでしょう。
だってほら―笑ってる。
「お前こそ、女の中ではまだましな方かと思うが」
「お褒め頂き光栄です」
珍しく誉められたので少しだけ気分がよくなった私は、テーブルの上の洋菓子に手を伸ばしながら尋ねた。
「ルキはちゃんと考えてものを言うでしょう?」
「…たいていの人間はそうだと思うが」
「そう。じゃ私は規格外の人間になるのでしょうね」
何となく予想していたけど、その心底どうでもいいといったもの言いについつい皮肉で返してしまった。
「感情よりも言葉が先に出てくることなんていくらでもあると思うの」
「それは何も考えずに発言しているということか?」
「そうなのかな。あるいは、感情とは別の何かが反射的に返してしまっているというか」
つまり理性に感情が追い付いていないのだ。
先に出た言葉に後付けの感情。
本心とは一体何なんだろうって考えさせられる。
「だから私の言う事は信用できない」
「お前自身がか?」
「私自信が。だって私自身、感情が追い付いてないことをよく実感するんだもの」
思うのではなく思いこんでるだけかもしれない。
例えば「貴方の事が好き」という感情も。
だって、そうしなければならなかった理由が十分に存在するのだから。
「卵が先か鶏が先かのような話だな」
呆れたようにそう言うと、彼はずっと手に持っていた本をパタンと閉じた。
「名無し」
「何?」
「以前お前は俺に愛してると言ったな」
「ええ、そうね」
確かに言った。
それは何の感情も籠っていない言葉だったかもしれないけど、私は確かにそう言ったのだ。
「それが本心でなくとも俺は別に構わない。ただし、そうだとしたら俺はお前に思い込ませてやる」
「貴方のことが好きで好きでたまらないってことを?」
「よく分かってるじゃないか」
やっぱりこの人は頭がいいのだろう。
私が分かっていない、私の感情さえもきっと理解してしまっているのだから。
そして彼は何事も無かったかのように、再び本を読み始めたのだった。
「ねぇ」
「何だ?」
少しでも貴方の考えが及ばない行動がしたくなってしまって。
「愛してるわ、ルキ」
ほら、ちょっと驚いたでしょ。
因果性のジレンマ
コウ「ほんとあの二人は似た者同士だよね。素直じゃないっていうかさー」
ユーマ「あぁ?お前だって人のこと言えねぇだろうがよ」
アズサ「二人とも…楽しそう……」
みたいな会話をしていたら素敵