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□無神家
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「人間は一度滅んでみるべきだったのかもしれないな」


そんなことを人間である私の目の前で平然と言ってのける男は、悔しいほどに美しかった。


月明かりをバックに冷淡な目でこちらを見下ろすその構図は、まるで計算しつくされたかのようである。


最もこの男ならやりかねない。


「もう済んだ?」


この状況下で不謹慎なことを考えている自分に半ば呆れながらも、私はそう問うた。


顔に当たる熱風は、決して心地よくはない。


「ああ。もうここは用済みだからな」


燃え盛る炎を楽しげに見つめながらそう答えた男は、やはり美しかった。


だから聞けなかった。


こんなことをする必要はあったのか?と。


逆巻家の屋敷のみならず神無町一帯に火をつける必要が果たしてあったのか。


「これでお前もリセットできるだろう」


そう言って私の頭を抱き寄せるルキの腕はいつも通り綺麗なままだった。


この人はいつもそう。


自分の欲しいものは必ず何としても手に入れる。


ただし、自分の手は汚さない。


「何ならここで挙式でもあげておくか?」


「挙式?」


耳慣れない言葉に思わず聞き返す。


「どうせ今日で人間を捨てるんだ。


最後に人間達の悲痛な叫びを聞きながらというのも悪くないだろう」


添えられていた手によってそのまま頭を横に倒されれば、首元があらわになる。


もう何度も繰り返しているこの行為も一向に慣れることはないけれど、いつからか優しくなったルキを受け入れるようになったのはいつだったか。


「痛くないか?」


今だってそう。


以前噛まれた痕を舌でなぞりながらそんな事を聞いてくる。


「大丈夫」


黙って身を委ねればいい。


そうすればこの人は私に優しくしてくれるし愛してくれる筈だから。


「・・・少し我慢していろ」


ちゅっ、というリップ音の後に牙が皮膚を貫いてきた。


牙が刺さる瞬間は、一瞬だけちくりと痛みが走る。


「名無し」


「ん?」


名前を呼んでくれるようになったのも、優しくしてくれるようになったのも全部計算なんじゃないかって。


時々そうやって不安になる私に、ルキはいつも私の聞きたい言葉を与えてくれる。


「これでお前を知る者はいなくなった。


お前は俺だけを見て俺だけを感じ、俺のことだけを考えていればいいんだ。分かっているな?」


私は聞けなかった。


みんなは何処に行ったの?と。


他の兄弟たちは?少なくとも貴方たちは同じ目的のために一緒にいた筈じゃないの?と。


「うん。分かってる」


素直にそう答えれば、『いい子だ』と言ってルキは頭を撫でてくれた。


そうして再び吸血に戻る。


時々囁かれる『愛してる』なんて安っぽい言葉が、私を確実に麻痺させていった。


「お前は俺だけのものだ」


そうやって過度な執着や嫉妬を見せつけられることが嬉しくて、他のことなんてどうでもよくなって


この人を愛した時から、もう私は罪人になってしまったのだろう。







堕罪
ルキさん初書き
ヒロイン調教済みです

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