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□seasons
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「名無しちゃん、僕に何か隠し事してない?」


そう言って、ぐいっとこちらに顔を寄せてくるライト。


いつもの調子で口元は緩いカーブを描いているけれど、目は笑っていない。


「隠し事?」


「そう。僕には言えない、何かやましいことがあるんじゃない?


今だって、ちゃんと僕の目を見て話してないよね」


隠し事がないと言えば嘘になる。


だが、それはライトの思っているような後ろめたいことじゃない。


どちらかというと彼を喜ばせるために用意したものだ。


「別にないけど」


「本当に?」


「うん」


じっーとその顔を見返すと、妖しく光る緑色の瞳がこちらを見つめていた。


「ふーん。まぁ、それならいいけど」


数秒間にらみ合った後、そう言ってライトは部屋を出て行った。


はぁ。


溜め息をついてベットに転がると、不意に笑いがこみあげてきた。


おそらく彼は、今日が自分の誕生日だってことを忘れているのだろう。


あるいは私が知らないとでも思っているのか。


いずれにせよ、サプライズは成功するんじゃないだろうか。


「全く変な所、鈍いんだから」


「何が?」


ひんやりと首筋に当たる冷たい感触に思わず飛び跳ねると、先程出て行った筈のライトがそこにいた。


「ちょっと、ライト!驚かさないでよ」


そう言って手を払いのけようとするも、彼は動かなかった。


「ねぇ、名無しちゃん。さっき何を楽しそうに笑っていたの?」


「え?」


首筋を這っていたその指は、肩に移動し腕をつかんでいる。


「言えよ」


「痛っ」


爪が肌に食い込んで紅い痕を残していく。


普段よりも数倍強い力で抑えつけられれば、ライトが本気で怒っていることが伝わってきた。


「あ、あのね、ライト」


・・・これはやばい。


下手したら殺されかねないこの状況は予想外だった。


慎重に口に出す言葉を選ぶ。


「ライト、今日誕生日でしょ?」


「は?」


一瞬凍りつく空気。


怒りを含むその瞳は、わけがわからないと言っている。


「以前、調べたことがあって。それで今日がライトの誕生日だって知ったから・・・」


永遠を生きる貴方たちヴァンパイアにとっては、誕生日なんてどうでもいいものかもしれないけれど。


どうか祝わせてほしい。


貴方が生まれてきてくれた特別な日を。


「はぁ」


掴まれていた腕が解放されて、代わりに全身が包み込まれた。


「ライト?」


「プレゼントは、もちろん名無しちゃんでいいんだよね?」


そう言って返事をするのを待たずにそっと牙を押し当ててくる。


「え?いや、プレゼントは別に用意して」


「逃がさないよ」


言葉通りにこれでもかって位、抱きしめられる。


気のせいか、いつもより鼓動が速くなっているように感じられた。


「誕生日なんだから、言うこと聞いてくれるよね?」


誕生日じゃなくても、いつだってライトの言うことなんて聞いてあげてるじゃない。


「仕方ないなぁ」


そんな私の言葉を飲みこむように、右肩に鈍い痛みが体を走った。







Happy Birthday
3/20 ライトの場合
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