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□seasons
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「名無し!」


バタンッ。


突然開けられた部屋の扉は、またしても突然に大きな音を立てて閉められた。


その慌ただしさから半ば予想していたのだが、その声を聞きやはりと思った。


「どうしたの?何かあった?」


割と最近気付いたことではあるのだが、アヤトくんはなかなか子供っぽい所がある。


可愛いと言ってしまえば可愛いのだが、時々もの凄く面倒臭い。


今日もまた、何か厄介事を持ちこまなきゃいいんだけど。


「てめぇ、なんでチョコレートなんだよ!」


突然入ってきたかと思えば、そんなことを言うアヤト。


どうしてチョコレートかって?


それは今日がバレンタインデーだからに決まっているだろう。


どうせ『どうしてたこ焼きじゃないんだ』とか何とか言うんだろう。


「だから、この前も言ったでしょ?たこ焼きならまた今度作るから、今回は」


「うるせぇ!甘ったるくて食ってらんねぇし」


私の言葉を遮るように捲し立てる。


ちなみに私がつくったのはホットケーキミックスを使ったたこ焼きもどき。


中身はタコではなく、チョコレートやクリームなどとにかく甘い物が詰められている。


「だってアヤトくん、甘い血が好きだって言ってたじゃない」


「はぁ?これとそれとは別だろーが!」


甘い物が嫌いなわけじゃない…筈。


だってこの前、ライトくんと一緒にマカロン食べてたし。


バレンタインなんだから素直に貰っておけばいい物を。


ああもう、面倒臭い。


「この俺に、こんな甘ったるいもん食わせやがって。責任とれよな?」


こちらが反論する間もなく、いつの間にか背後に回っていたアヤト。


肩のあたりに鋭い痛みが走り、吸血されているのだと気づく。


「痛っ」


「当たり前だろ。痛くしてやってんだから」


何時になっても慣れないその行為を、どこか客観的に受け止めていた私であったが


先程よりも強い刺激を与えられ、思わずうめき声を上げた。


「やっぱお前の血、甘いな」


彼なりの愛情表現なんだって、そう言われたって受け入れられる筈がない。


それでも彼について考えるのを止められないのは、もうとっくに堕ちている証拠だった。


「お前はそうやって俺の言うとおりにしてりゃいいんだよ」


ぼんやりと薄れていく意識の中、血の匂いだけではない、どこか甘い匂いがしたのは気のせいだっただろうか。







それはもう美味しかったよ
吸血してから完食しましたよっていう
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