book
□seasons
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「チョコートが本来どのような食べ物であったかご存知ですか?」
「え?」
今日はバレンタイン。
レイジさんの口に合うものを、そう思って奮発した少し値段の張るチョコレートを渡しにきたつもりが・・・
いつの間にかそれは無造作にテーブルに置かれていて、彼は淡々と話し続けている。
「元々はアメリカの先住民が口にしていたそうでしてね。それを目ざとく見つけたヨーロッパの先人達が、甘い飲み物として用いていたのですよ」
その話なら聞いたことがある。
何でも昔のヨーロッパの貴族たちはチョコレートを飲む習慣があったとか何とか。
でも・・・
レイジさんは一体何を言いたいんだろう?
「つまり―」
顎を持ち上げられて少しだけ、上を向かされる。
眼鏡の奥に妖しく光る瞳と視線がぶつかった。
「あなたごときがこんな安っぽいチョコレートで私を喜ばそうなんて、思い上がりも甚だしいのですよ」
そう言うと彼は至極愉快そうに笑った。
無造作に置かれたチョコレートは封も切られていない。
確かにレイジさんの高級志向には敵わないけど・・・
それでも一応、ちゃんと選んで買って来たのに。
「どうしたのですか?そんな顔をして。もしかして私があなたからの贈り物で喜ぶとでも?」
「そんな、私は・・・」
ただ喜んで欲しかっただけなのに。
私は何も言い返すことができず、ただ俯くだけ。
ガタン。
しばしの沈黙の後、急に席を立ったレイジさん。
そのまま部屋を出てどこかへ行ってしまった。
勝手に部屋に戻ることもできず数分後。
しばらくして戻ってきた彼の手の中には、少し大きめのカップが2つ用意されていた。
「全く貴方は本当にどうしようもない方ですね。私が教えて差し上げますよ」
そう言ってコポコポと注がれているのは、茶色い液体だった。
「レイジさん、これは・・・?」
まさかと思うが、これがチョコレートなのだろうか?
いや、でも流石にこの屋敷にそんなものがある筈―
「お飲みなさい」
私の問いかけには一切動じず、ぐいっとカップをこちらに差し出す。
「名無しさん?聞いているのですか?」
「は、はい」
慌ててカップをつかみ、中の液体を口にした。
ごくり。
それは思ったよりもサラサラしていて、少し苦かった。
「どうですか?美味しいでしょう?」
「・・・美味しいです」
美味しい。
確かに美味しいんだけど・・・
これじゃバレンタインの意味がないじゃない。
私が浮かない顔をしていると、大きく溜息をついたレイジさんが私に箱を差し出した。
「包みをほどきなさい」
「え?」
「早く。この私を待たせるつもりですか?」
すみません、と言いながら慌ててリボンをほどき箱を開ける。
綺麗に並ぶチョコレートを1つ手に取り口へ運ぶ。
「…雑味が多いですね。それでもまぁ、貴方にして頑張った方なのでは?」
そう言って2つ目のチョコレートに手を伸ばす指を追いながら、少しだけ安心したのだった。
bitter sweet
何だかんだ言って食べてくれるレイジさんの優しさ