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□seasons
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いつ以来だろう、バレンタインデーにチョコレートを用意するなんて。


子供の頃はクッキーを焼いたりカップケーキをつくったり、毎年そうやって準備するのが楽しかったのを覚えている。


だんだんとつくるのが億劫になって、いつの間にか止めてしまっていたのだけど。


今回用意したものも結局デパートで買ってきたものになってしまったけど、何も無いよりはいいだろう。


「シュウ?」


相変わらずの見慣れた風景。


自室のベットに横になり音楽を聴いているシュウ。


私が入ってきても少しだけ目を向けるだけで振り返ろうとはしない。


果たして彼は食べてくれるのだろうか。


折角用意した紙袋も捨てることにならないと良いけど。


「チョコレート、食べない?」


一瞬の沈黙。


もしかして寝てるの?


何もリアクションがないことから、起きているのかさえも分からない。


「ねぇ、起き」


後ろから覗き込むように近寄ると、急に腕を引っ張られた私は、頭からベットに突っ込んだ。


私の下では仰向けになったシュウがいて、気だるそうにこちらを見ている。


何だ、この少女マンガのような展開は。


はぁ。


私は大きく溜息を吐いて起きあがると、箱が潰れていないか確認した。


・・・袋は少し折れてしまっているけど、中の箱は無事みたい。


「それ何」


渡すつもりで持って来たのに、いざ本人を目の前にするとどうしてだか渡すのが躊躇われた。


いらない、て言われそうで。


「チョコレート。バレンタインだから持って来たんだけど・・・」


無表情で手にした箱を見つめるシュウは何も言わない。


やっぱりいらなかったかな。


「ご、ごめん。いらないなら私が食べるから―」


自分でも何に対して謝っているのかよく分からないまま、慌てて袋の中にしまおうとすると不意にその手を掴まれた。


「いらないなんて、言ってないんだけど」


「え?」


「あんたが食べさせてくれるんだろ?早く箱開けろよ」


「・・うん」


別におかしくない、これが世間一般的な答えの筈なのに何故か戸惑っている私がいて。


丁寧に包装紙をはぎ取り蓋を開けてみれば、そこには可愛らしいデザインのチョコレートが綺麗に並べられていた。


「どれが食べたい?」


「ん?どれも同じじゃないのか?」


私は一つずつチョコレートを指し示して解説する。


「これは中にナッツが入っている奴で、こっちはビターチョコレートかな。あと、これは」


「これでいい」


私の声を遮ってシュウが指さしたものは、ハートの形をしたスイートチョコレートだった。


「これ?これは何も入ってない、甘いやつだけど」


「ああ。それでいい」


シュウのことだから、コーヒーが入っているのとかビターだとか、少し苦い方が好きなのかなって思ってたんだけど。


一番甘ったるくて可愛らしいデザインのものを選んだのは意外だった。


「はい、じゃ口開けて」


「ん」


あーん、と開かれた口に小さなハートを差し出すと、それは口の中に収まって溶けていった。


毎回思うことだけど、こういう時のシュウは凄く可愛らしい。


本当は誰よりも甘えん坊なんじゃないかって思う。


「美味しい?」


「まぁ、こんなもんだろ」


そうは言うものの何となく機嫌がいいようなシュウの様子に、ちょっと嬉しくなる。


「ほら、名無し」


そう言って私に差し出されたのはもう一つの、先程のハートとペアになっていたチョコレート。


どうしてそれを選ぶかな。


またそうやって私のことをからかってるだけかもしれないけれど、やっぱりハートを差し出されるとちょっと恥ずかしくなる。


「口開けろ」


「え?あ、でもこれシュウのために買ってきたものだから」


「早く」


小さなハートを持つシュウの手が目の前に迫ってきたので、私は観念して口を開けた。


チョコレートが口の中に放り込まれ、甘い感覚が隅々まで広がる。


「甘い」


頬を緩めながら思わずそう呟くと、当たり前だろ、なんて声が返ってきた。


「そうだね」


凄く、凄く甘い。


それはもう、クセになる位。


「シュウ、次は何食べたい?」


私はもう一度箱を手に持ち、シュウに問いかけた。







この心臓はもう既に
シュウ様にチョコレートを贈りたい
そして食べさせたい

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