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□seasons
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今日は朝から生憎の雨だった。


折角きれいに咲いていた薔薇の花もほとんど散ってしまっていて、やっと見つけた一輪だけをそっと屋敷の中に持ち帰った。


穢れの無い、真っ白な薔薇。


彼が起きてくるまで鮮度を保っていられるように水の入った花瓶に挿すと、少しだけしゃんとしたような気がした。


「おい、何してんだ」


ガタン。


あぁ、水が零れてしまった。


弁解するつもりはないが、ヴァンパイアになった私の五感は人間よりは優れていると言っても本家には敵わない。


だからこうやって不意に現れたりする彼に驚かされるのも仕方がないのである。


「・・・おはよう」


「ああ。でお前、何してんだ?こんな朝っぱらから」


「スバルくんこそどうしたの?こんな朝早くに」


質問を質問で返すなんて卑怯な逃げ道を使ったものだと我ながら思うけれど


そんなことにはお構いなしに答えてくれるスバルくんはやはり優しいのだと思う。


「俺か?俺は、まぁ何と言うか目が覚めちまって」


それに、と言って顔を近づけられる。


「起きたらお前がいなかったから・・・」


だんだんと小さくなっていく声に思わずニヤニヤしてしまっていると、笑うなと怒られた。


怒られながらも抱き締められて、スバルくんでいっぱいになって。


ここはやっぱり凄く落ち着くなぁって。


「ねぇ、スバルくん」


「何だ?」


ちょっと早いけど言ってしまおう。


心配させてしまった罪滅ぼしではないけれど、少しでも貴方が安らげる場所になりたいと思うから。


「誕生日おめでとう」


「・・・っ!」


腕の中から見たスバルくんの顔は真っ赤になっていて、それを隠すようにまたぎゅっと抱きしめられる。


スバルくんにとっても私にとっても、こんなに朝早くからお祝いしたのってきっと初めてだろう。


プレゼントもケーキも、ましてや朝食さえまだ準備できていないけどそれでも喜んでくれるのなら。


「なぁ」


「何?」


ふと顔を上げてみると、花瓶に挿した薔薇の花に視線をやっているスバルくんの顔が見えた。


「花束つくってくれねぇか?母さんのところに持っていこうと思う」


「薔薇の花?」


白薔薇と呼ばれていた彼のお母さんは少し前に亡くなっている。


「薔薇じゃなくても構わねぇよ。ほら、温室で育てていたやつあるだろ?あれでいい」


「分かった」


すまねぇな、と言って私の頭を撫でるその姿にちょっと切なくなる。


「・・あっ」


いつの間にか、雨音は止んでいた。


朝食の支度をして、それが終わったらすぐにでも花を摘んでこよう。


白いカーネーションが数本あった筈だ。


「どうした?」


「ううん、何でも無いよ」


本当は生きているうちにお会いしたかったけど、それは叶わぬ夢となっていしまった。


彼を産んだことが間違いなんかじゃなかったんだって、そう伝えられたらいいなって思いながら私はもう一度声に出した。


「スバルくん、誕生日おめでとう」







Happy Birthday
11/4 スバルの場合
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