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□seasons
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自分から会いに行くのはあまり好きじゃない。


何だか自分だけが求めているような気がして、ちょっと不安な気持ちになる。


それでも今日は特別だ。


なんたってあの人の誕生日なんだから。


「遅いですよ」


指定した時間より10分も前なのにその人はもうそこにいた。


相も変わらず仏頂面でメガネをかけなおしている。


「ごめんなさい。ちょっと忘れ物をしてしまって」


それは嘘ではない。


そして本来なら、こうなることを見越して15分前に着いている筈だった。


でも約束の時間までにはあと5分あるのよ?


そんな言い訳を飲みこんで私は小さな包みを手渡す。


「はい。これ―」


「何ですか?また嫌がらせの品ではないでしょうね」


何で誕生日プレゼントが嫌がらせになるの?


またいつも通りの嫌味かと思ったが、本当に怪訝そうな顔をしている。


私、そんなに敵意を向けたことあるかしら?


「あなた、今日誕生日でしょ?いくらなんでも私だって普通にお祝いするわよ」


ああもう、おめでとうよりも先にどうしてこういう言葉が先に出ちゃうかな。


そうやって自分自身に呆れながらもレイジの様子を伺った。


しかしその表情からは何も読み取る事は出来なかった。


こういう時、眼鏡って嫌よね。


「誕生日?・・・ああ、そういえばそうでした」


「え?ちょっと、もしかして自分の誕生日を忘れてたわけじゃ」


「ええ、忘れていましたよ。そんなもの、この先何度も迎えるわけですから特に大切でもないでしょう」


何それ。


わざわざこの日のために頭を悩ませた私が馬鹿みたいじゃない。


「取りあえず、おめでとうと言っておくわ。今日という日を無事に迎えられてよかったわね」


皮肉交じりにそう言ったけど半分は本心。


最近、逆巻家の勢力に対抗しようといくつもの派閥が手を組んでいることを私は知っている。


もしそうなってしまったら、きっと彼もただでは済まないだろう。


「はぁ。貴方って人はつくづく厄介ですね」


そう言いながら開いた包みの中に光っていたのは、ティーカップだった。


綺麗に磨かれた傷一つない食器。


そしてそれはペアになっている。


もちろんもう一つは―


「これじゃ使えるわけないでしょう」


「どうして?あなた、これ欲しがっていたじゃない」


先程の仏頂面もこれで直ると思っていたのに、そんな風に言われちゃ形無しだ。


私は不服そうに口を尖らした。


「これだから嫌なのですよ」


「だから、何が」


むきになって反論しようとしたその時、私の背中にはがっしりとした腕が回された。


そしてきつく、抱き締められる。


「これは単体じゃ意味がないんですよ。分かりますか?」


そうやって耳元で囁くのは反則だ。


だってこの声が私は凄く好きなのだから。


「並べて置いておいて下さい。・・・貴方のと一緒に」


「・・・それじゃ使えないじゃない」


分かっていながら上げ足を取るのは私の悪い癖だ。


それは言って欲しいから。


愛されてる事を自覚したいから。


「構いませんよ。それは貴方の家で使うことにしますから」


多分私たちは似た者同士だ。


会いたいと思っていても、理由がなければ会いに行くことを実行できない。


そんな私から彼への誕生日プレゼントは、きっと伝わったことだろう。


「レイジ、誕生日おめでとう」


私はずっと待ってるから。







HappyBirthday
8/29 レイジの場合
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