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□過去拍手
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「こっちには来てないみたい」


「そうか」


最低限の言葉だけを交わしながら足早に森を抜ける。


小型の拳銃を備えながら、周囲を警戒して走る様子はまるで映画のようだった。


ガサッ。


茂みから不穏な物音がする。


音がした辺りに目を向けると、目に見えない何かがこちらに向かってくるのが伝わってきた。


「どいてろ」


咄嗟に拳銃を構えた私を庇うように前に進み出るシュウ。


腕を少し動かしただけで得体のしれないものの気配は消えていった。


「何だったの?」


「使い魔だ」


大方レイジあたりが追わせたんだろう、なんて事も無げに言うもんだからちょっと笑ってしまった。


「何?」


「ううん。頼もしいなって思って」


初めて会った頃とは大違いだ、なんて言ったら怒るだろうか。


少なくとも彼の意思は、私よりもはっきりしていることだろう。


「ここを抜ければおそらくもう追っては来れない」


「そう」


後ろを振り返ると、もう屋敷は霞んでいて黒々とした木々だけが続いているのが見えた。


「ねぇ、後悔してない?」


シュウ1人だったらきっと、ここまでしつこく追われることも無かっただろう。


そうじゃないのは生贄として連れて来られた私がいるから。


結果的には私を逃がしてしまったと言っても間違ってはいない。


「何が?」


「私を連れて逃げてること」


この人のことを信じたいと言う気持ちは強い。


しかし重荷になりたくないという気持ちもある。


何だかんだ言ってシュウは優しいから、きっと誰かに襲われたとしても身を呈して守ってくれるだろう。


それが心配でたまらなかった。


「はぁ」


シュウの口から零れおちたのは大きな溜め息。


それからグイッと引き寄せられる。


「い、いきなり何・・・?」


冷たい手が私の腕を掴み、背中へと回される。


そのまま立ち止まり抱きしめられれば、当然反応に困ってしまった。


「俺はそんなに多くを望んじゃいない」


「え?」


吐息が直接耳にかかるほどの距離でそう囁かれる。


「言っただろ?お前がいればそれでいい」


空は白み月が隠れ始める頃、私たちは永遠を誓い合った。
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