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□逆巻家
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例えば私のことを好きだと言ってくれる人がいたとして、でもそれは私の持っている『好き』とは違うようで


いや、本質的には同じなんだけどきっと量的には決して釣り合うことがない


おそらく私の思う『好き』はその数十倍は重いだろう、そう感じたとき


私は前に進むことができなくなる。


だからあなたに会った時、私は凄く嬉しかったの。


「ライト、何してるの?」


部屋に入るとベットは占領されていて、その上には衣類が散らばっていた。


「おかえり名無しちゃん。ずーっと、君のこと待ってたんだよ?」


過剰なまでに私に執着してくるこの男を、普通なら拒むべきなのであろう。


でも私にはそれができなかった。


何故なら私も同じだから。


「ほら、これ。可愛いでしょ?」


そう言いながらライトが差し出したのは綺麗なドレス。


どこかで見覚えがあるような気がするのは気のせいだろうか。


「それ、どこかで・・・」


「ああ、うん。これ、あの人のだからさ」


あの人―それはライトの愛した人のこと。


幸い既に亡くなってはいるのだが、もしまだ存命していたのならば私は狂ってしまっているかもしれない。


一番になれないのは、嫌だから。


私の愛を受け止めてくれる人が、私以外にも愛を注いでるなんて考えたくもない。


「そう。で、何で脱がそうとしてるの?」


ドレスを置いて私の服に手をかけようとしているライトを制止すると、悪戯っぽく微笑んだ瞳とかち合った。


悪い予感がする。


「何でって、名無しちゃんにこれを、着て貰いたいからだよ?」


チュッというリップ音がして首筋に唇が這っていく感触が伝わる。


それは、大抵私の機嫌が悪い時になされる行為で、大方自分の意見を通そうと思案しているのだろうと思った。


でも、騙されないわよ。


そんなんで釣られはしないんだから。


「嫌。それだけは絶対に嫌」


それを着てしまうと、ライトが愛してくれるのは『私』ではなくて、『あの人』の面影を追っているだけだってそう感じてしまうから。


今、ここでは私だけを愛して欲しいの。


他の人なんていらない。


「あれー?嫉妬してるの?」


睨みつけるようにその美しいドレスを見ていると、笑いながらそう茶化された。


おそらく、私は嫉妬しているのだろう。


死んでもなおライトの心に存在する『あの人』に。


それを知ってて言ってくるライトはホントに意地が悪い。


泣きそうな顔でその瞳を見据えれば、溜息をついて私の髪を撫でた。


「はぁ。もう仕方ないなー」


そんなに僕のことが好きなの?


そう言って頬にキスを落とされれば、私の中にはどす黒い独占欲が充満して行くのが分かった。







純粋に愛を紡げないとしても
ヤンデレ×変態
収拾がつかなくなりそう

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