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□逆巻家
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「嫌い。貴方のことなんて大嫌い」


それはきっと呪文のようなもので、唱えることで自己暗示をかけていたんだと思う。


だってそうでもしないと壊れてしまいそうだったから。


「私はライトのことなんか」


「嘘つき」


繰り返すその言葉に終止符を打ったのは聞き慣れた甘い声。


違う、甘くなんかない。


甘い筈ないでしょ、私は貴方が嫌いなんだから。


「だから嫌いだって言って」


「全く、何に怯えてるんだか」


そう言って掴まれた腕は、容易にはほどけなかった。


「離してよ」


「ヤダ」


緑色の瞳とかち合う。


それは悔しい位、私が求めていた温かさがあって、そこに映る自分を見ながら泣きそうになっていた。


「ねぇ、名無しちゃん?」


「なによ」


声が震える。


それはきっと寒いからとかそういう訳ではない。


心のどこかで私は思ってたんだ。


誰かに助けてもらいたいって。


「僕は名無しちゃんのこと、好きだよ?」


うるさい、それ以上言わないで。


貴方の口から『愛してる』なんて聞きたくない。


もう私に関わらないで。


「だから君も素直になりなよ?」


簡単に言ってくれるじゃない。


それがどれだけ難しいことか分かっているくせに。


「あのねぇ、私は」


「君の元を去った男のことなら、僕がちゃんと忘れさせてあげるから。ね?」


違う。これはただの同情であって、私のことを愛しているとかそんなのは嘘だ。


嘘に決まっている。


惑わされるな。


そう暗示をかけていないと、いとも簡単に溺れてしまいそうで私は必死に耳を塞いだ。


「だから私はライトのことなんて」


「はい、時間切れー」


そうして腕の中に収まった私の頭を撫でてくるライト。


だからダメだって言ったのに。


こんなことされちゃ、また騙される。


甘えていいんだ、私だけを愛してくれるんだって勘違いしてしまう。


「愛してるよ。ずーっと君だけを、ね」


額に落とされるキスがあまりにも優しくて、思わずその胸に縋りついた。







嘘でもいいなんて
ライトは策士だと思う
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