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□逆巻家
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人間とヴァンパイアが本当に理解しあえるなんて思っちゃいない。
それでもどうにかして自分を知ってもらいたいなんて思うのは私のエゴだろうか?
「痛いか?」
そうやって楽しそうに私の肌を牙で散々痛めつけている彼は、決して私の意思など考えたりしないし、ましてや『愛してる』なんて言葉も紡がない。
「痛い」
私がそう答えると嬉しそうに、更に深く牙を突き刺していく。
後ろから回された腕は逃がさないとでも言うようにがっちりと私を捕えて離さない。
「ほら、もっと声出せよ?」
「いっ…!?」
この極めて利己的な執着が愛だというのなら、これが彼らの愛し方だというのなら
それならば全てを受け入れようと考えている私は馬鹿なのだろうか?
「なぁ、名無し」
痛みに耐えながらもそんな事を考えていた私を、ふいに現実へと引き戻すアヤトの声。
「お前、考え事なんかしてる余裕あんのかよ・・・?」
「え?」
私がボッーとしていたのが気いらなかったのか、思いっきり肩の骨のあたりを噛まれる。
「痛っ」
「当たり前だろうが。痛くしてんだからよ」
あまりの痛みに視界が霞む。
それが彼を喜ばせる行為だと分かってはいても、目から溢れだすものは止めることはできない。
「ククッ。泣いてんのかよ?」
そうい言って血を舐めるように、美味しそうに涙を舌で掬いとる。
そして噛みつくようなキス。
口の中はしょっぱかったり苦かったりと色々と混ざってしまって変ながする。
いっそ『お前なんか愛していない』と言いきってくれれば、私の頭の中も同じようにぐちゃぐちゃのままでいられずに済むのに。
「アヤトくん」
涙はまだ流れているが、私の声は震えていなかった。
「ねぇ、」
「名無し、俺の背中に手回せ」
私の言葉を遮るように、だらんと垂れた腕を無理やり自分の肩に置くように持っていく。
だから、それは、どうして、でもきっと…
私の中の葛藤を吹き飛ばすように、彼は耳元で囁いた。
「お前が何考えてんのか知らねぇけど」
「・・・なに?」
「何処にも行かせねぇからな」
本来ならば呪縛のようにも取れるその言葉を受け取った時
錯覚でもいいから彼に愛されていると思いたい、そう確かに感じたのだ。
愛とは
包むはずが切り刻んで
撫でるつもりが引っ掻いて
…みたいなイメージ