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□逆巻家
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その人は優しい人だった。


近づいたと思えば遠ざけられるのは、きっと私を守るためだったのだろう。


「うるさい。俺に関わるな」


そうやって何度も手を振り払われた。


それでも放っておけなくて、彼がどうしてそんな態度を取り続けてたかなんて考えもしないで


その度に私は、その手を掴もうともがいていた。


「シュウは優しいね」


いつだったか私がそう言った時、彼は目を丸くして驚いていた。


でも、驚きだけじゃない。


何かを恐れているような、不安そうな瞳。


「・・・あんた、とんでもないお人好しだな」


口ではそう言っていたけど、後ろから回された腕はまるで何かに縋るように頼りないものだった。


この人はきっと寂しいんだな。


そう感じ取った私はそのままの彼を受け入れた。


それからだろうか、大切にされていると感じるようになったのは。


「名無し」


「何?」


「・・・」


「はいはい。今やるからちょっと待ってて」


多分、傍から見たら何も変わっていないだろうけど


相変わらず私をからかって、あれこれ命令ばかりだったけど


その小さな変化が凄く嬉しかった。


私は人間で、彼はヴァンパイアで


私は餌で、彼は捕食者で


知っていたのに分かっていたのに


それだけじゃないって思いたかった。


そう思ってるのは私だけじゃないって、信じたかった。


「1人で寂しくない?」


石に彫られた名前を指でなぞりながらそっと問いかける。


きっと優しい貴方の事だから平気な顔してまた私を遠ざけようとするんだろうけど。


「泣いてないと良いけど」


そんなこと言ったらきっと怒るだろうな。


もう一度会えるのであれば、それでも構わない。


今こうして、貴方の墓の前にいるんだけど、それだけでもう愛おしさが溢れてくるの。


だから―


「待っててね」


鈍く輝くナイフをそっと胸に押し当ててそのまま突き刺す。


じわりと血がにじみ出てくる。


ああ、やっぱりちょっと痛いかも。


だけどこれもシュウのためだもの。


彼を一人にしてはおけないわ。


「好きよ」


そうして彼女は息絶えた。







追悼
リハビリもかねて
実は死ネタとか大好物だったり

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