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□逆巻家
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最初はただ興味本位だった。


同じクラスの子に、カッコいい人がいるんだよって言われたからただ見に行っただけ。


生憎お目当てのその人は教室にはいなかったんだけど。


そんなことだから、初めて会った時には彼のことなんてすっかり忘れてしまっていたんだ。


「おい」


初めて会ったのは屋上だった。


何をするわけでもなく、ただ綺麗な星空を見ていた私は、急に後ろから話しかけられて思わビクついてしまった。


だって夜の屋上に私以外の人が来るなんて、普通思わないじゃない?


私は咄嗟に横に置いてあったカバンをつかんで楯変わりに抱いてから振り返った。


「何?」


そこに居たのは全然知らない人。


眠たそうな目でこちらを見ていて、だるそうにしている様子が伝わってくる。


でも、それだけじゃなかった。


金髪・碧眼でとにかく容姿が整っている。


何というか―外国とかに居そうな王子様ってこんな感じなのかな、て思う。


「そこ」


「え?」


彼は私の座っている場所を指さして何かを言いかけた。


ここがどうかしたのだろうか。


私は少しだけ首をかしげる。


しかし、何かを口にする前に彼はごろんと横になってしまった。


「あ、あの、ちょっと」


突然の展開に私は付いていけずただうろたえるだけ。


そんな私にはお構いなしに寝息を立て始める彼。


それが逆巻シュウと私の出会いだった。







「逆巻兄弟のお兄さん!?」


当然、彼の名前を知ったのはその少し後だ。


屋上に行くのが日課になっていた私の前に、彼は度々姿を現した。


最初は警戒して近づくことはできなかったけど、次第に話せるようになっていった。


「それがどうした?」


「え、あ、いや何でも・・・」


校内でも有名な逆巻兄弟。


同じクラスになったことはないが、何とも個性的な兄弟であると話には聞いている。


個性的というか―顔はいいのに性格に難有りだとかどうとか。


その長男は出席日数が足りずに留年したらしい、とも。


そんな人とまさかここで会うなんてね―なかなか教室に出て来ないと聞いていたのでそれは驚きだった。


以前友人が言っていた『かっこいい人』というのも確かに頷けるし。


そんなことを考えていたら不意に問いかけられた。


「あんた、なんでここに来るわけ?」


「ここって屋上?」


「ああ」


何でここに来るか。


特に深く考えたこともない。


強いて言えば人ごみから逃れるように歩いていたらここに辿りついたというか―


「誰もいなかった、からかな」


「は?」


学校に同じ境遇の子はたくさんいるけど、正直ずっと張り合っているのはキツイ。


モデル、女優、タレント・・・どれも凌ぎ合いが激しい世界だから。


人と関わっていると、どうしても笑顔でいなくちゃって思ってしまう。


でもここに来れば私を見て何か言う人はいない。


だって誰もいないのだから。


「あんた、変な女だな」


私を見て、それだけ言って笑った彼の横顔に一瞬目を奪われてしまった。


必要以上に飾らない、ただ私だけを見て言われた言葉だからかもしれない。







それから屋上で彼と過ごす時間が少しだけ楽しみになっている自分がいた。


不定期に訪れるその時は、私を上辺だけの薄っぺらい笑顔から解放してくれた。


今までそんな人はいなかったから、どんどん惹かれているのが自分でも気付いている。


でもきっと私は臆病だから。


想いなんて伝えられる筈もないんだけれど。


私が1人夜空を見上げている時に、彼の手は赤く染まっていたことなど私には知る由もなかった。







彼の秘密と私の秘密
正体に気付いた時、一体どうするのか
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