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□逆巻家
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体が重い。
瞼を持ち上げるのさえ億劫で、頭がボッーとする。
「ゲホゲホッ」
咳き込むと喉に鋭い痛みが走り、思わずそこに手を添える。
もしかして風邪引いたのかな、なんて思いながら再び布団に倒れこむとそのまま意識が遠のいてった。
「名無しさん」
ひんやりとした手が額に当たる。
「聞こえていますか?名無しさん」
再び閉じてしまいそうになる瞼を無理やり持ち上げてみると、そこにはこちらの様子をうかがっているレイジがいた。
「え?」
ぼんやりとしながら体を起こす。
頭の中は霧がかかったように重い。
「全く貴方は。自分の体調管理も碌にできていないなんて」
そう言いながら、背中に手を回される。
ゆっくりと体を起こせば、だんだんと目の焦点も合ってきた。
「レイジ、さん?」
声が上手く出ない。
口を開くたびに喉に激痛が走る。
「黙ってなさい。そんな品のない声など聞きたくありません」
私は言い返す気力もなく、ただ頷くだけ。
全身が重くて、体を起こしたのは良いがそこから動くことはできない。
「失礼」
慣れた様子で熱を測り、もう一度私の額に手を乗せる。
いつもより冷たく感じるその手の感触が気持ち良い。
「37度、ですか。微熱ですが、大事を取って安静にしていた方が宜しいでしょう」
ありがとうございます―
声が出にくくなっている私は、どうにかそれを伝えようと先程よりも深く頭を下げた。
「そういえば、以前作っておいた風邪薬がありましてね。持ってきて差し上げましょう」
そう言いながら部屋を出ていったレイジの後姿を見送りながら、私はまだぼんやりしていた。
「起きなさい」
どうやら私は寝てしまっていたようで、再びレイジさんの叱責する声に起こされた。
起きたのは良いが、具合が良くなっているとは感じられない。
「私の手を煩わせるなど、貴方も随分立派になった物ですね」
皮肉たっぷりにそう言われれば、思わず苦笑いをしてしまう。
すみません、という意味を込めて軽く頭を下げた。
「まぁ、いいでしょう。さぁ、これを飲みなさい」
そう言って手渡されたのは小さな瓶に入った液体だった。
茶色い瓶に入っているせいで中の液体の色は分からないが、どことなく危険なにおいを感じる。
「ほら早く。貴方だって明日学校を休むなんてことにはならない方が良いのでしょう?」
そう言われれば飲むしかない。
私は恐る恐る瓶のふたを開けて匂いを嗅ぐべく鼻を近づけた。
・・・取りあえずおかしな匂いはしないようだ。
早く飲めと言いたげなレイジの視線が突き刺さる中、私は瓶の淵に口をつけ一気に飲み干した。
「ゲホゲホッ」
一言でいえばそれはもの凄く苦かった。
喉が焼けつくような、本当にこれは薬なのか、とでも言いたくなるような―
レイジの方を見やると、随分と涼しげな目でこちらを見ていた。
口元に笑みを浮かべているのは気のせいだと思いたい。
「良薬口に苦しと言うでしょう?安心なさい、それで死ぬことはありませんから」
もしかして毒薬だったのか、とか
これは本当に風邪薬なのか、とか
色々聞きたいことはあったのだけど、襲いかかる睡魔と倦怠感には勝てなかった。
ゆっくりと瞼が閉じていくのが分かる。
「貴方には困ったものですね」
だんだんと意識が遠のいていく中で最後に聞いたのは、おやすみなさい、と優しく呟く声だった。
毒と薬
風邪をひきました
誰か看病して下さい