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□逆巻家
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「女帝、じゃない?」


私は1枚のタロットカードを手渡した。


それを見たレイジはフンと鼻を鳴らす。


「なるほど。それが貴方の答えですか」


『貴方の答えですか』て何様のつもり?


全く、いつもいつも高圧的なんだから。


「純粋。円満。思いやり」


そのカードの意味を淡々と読み上げていくと、目の前の男はつまらなそうにカードを手に取った。


「他には?」


「人を愛すること。安らぎ。繁栄」


その答えに納得できないのか、レイジはカードをこちらに寄こした。


何度言っても答えは変わらないのに、どうしてそんなに拘るのか。


「まぁ、いいでしょう。占いという不確定なものに頼っても仕方ありませんし」


それならわざわざ来なくてもいいじゃない。


そんな意味を込めながらカードを受け取ると、その男は向かい側のソファに腰を下ろした。


だいたい自分の屋敷に人間の女が来たからって、どうして私に占わせるわけ?


わざわざご丁寧に『不確定』なんて言い切っちゃって。


「それなら帰ったら?」


カードを片づけてそう返すと、何故か呆れたように見返された。


意味が分からない。


「貴方って人は本当に気が短いものですね。手がかかって仕方ない」


「それはどういう意味よ?」


「いいからそこにお掛けになってなさい」


そう言ってマグカップを取りだして、カップにお茶を注ぐレイジ。


ほらまた、そうやって。


私の機嫌の取り方を知っているものだから、余計腹立たしくなる。


「どうぞ」


カップを受け取るとふわりと香る、私の好きな香り。


アップルティーの甘い香りが私の中に入り込んでくる。


これだけで満たされるもんだから、私は至って単純な思考回路を持っているんだろう。


「それで」


カップを置き一息つくと、私は話を切り出した。


「女帝じゃ不満?愚者か節制あたりが良かったわけ?」


愚者は本来『夢見がちな冒険者』と捉えられることが多いが、『不安定な者』という意味もある。


節制は言わずもがな『調和』や『安定』だ。


それに加えて『受け身』という風にも捉えられるが。


どちらにせよ、被支配側にぴったりだ。


「いえ。そうではありません」


そうではない?


だとしたら何を期待したというのだ。


「今回こそは、と思ったのですがね」


「だから何を期待していたのよ?」


だいたいこいつが求めることなんて、自分が扱いやすいかどうかでしょ?


「分かりませんか?」


分からないわよ。


貴方の考えていることなんて、昔からちっとも分からない。


「せめて女教皇でも出てくれれば、と思ったのですよ」


「女教皇?」


拍子抜けしてしまった。


女教皇―それは知性や良識を表すカードである。


自分の獲物にさえ知性を求めるなんて、無駄もいいところなのに。


まぁ、レイジらしいといえばそれまでだが。


「ええ。いくら餌であると言っても、私は馬鹿が嫌いですからね。貴方もよくご存じでしょう?」


手袋をつけたままの細長い指で顎を引かれれば、何を言いたいのかは薄っすら理解することができた。


『貴方は賢い女性だ』


それが彼なりの褒め言葉であり、おそらくそれを言わせたのは、彼の母君を除けば私だけだろう。


眼鏡越しにこちらを見つめられれば、熱のこもった視線に耐えられなくなり


顔に添えられた手を振り払った。


「それじゃ、また今回もハズレってわけね」


「3度目の正直という言葉にあるように、今回こそはと思ったのですが。仕方ないですね」


しばらくはまた、貴方で我慢することにしましょう。


耳元で囁かれるその低音に飲みこまれながら、私は思わず口元を緩めた。







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