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□逆巻家
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アポトーシス。


それは『細胞の自然死』を意味する。


例えばおたまじゃくしの尻尾なんかがその例だ。


簡単に言うと、初めから死ぬ予定だったってこと。


朽ちていく瞬間に私の頭をよぎったのはその言葉だった。


「えっ・・・?」


そうか、これはきっと起こり得るべくして起こったことなのだ。


私はここで死ぬ予定だったんだ、きっとそうだ。


だってこんなにも綺麗に終わりを迎えるなんて、出来すぎているもの。


「おい、名無し!」


珍しく大きい声をあげているシュウを見つめながら、私は自分の体が今にも崩れ落ちそうなのを感じていた。


どうして?


どうしてダメだったのだろう?


答えは見つからないままに意識が遠ざかっていく。


「私・・・」


確かに上手くいきすぎていると思ったんだ。


いきなり連れて来られて血を吸われてヴァンパイアになるなんて。


幼い頃からどこかおとぎ話のヒロインに憧れていた私は、その話を聞いて凄く嬉しかったんだ。


飽き飽きしていた日常から離れて、ヴァンパイアの花嫁になれるなんて素敵じゃない。


でもそれは叶うことのない夢だったようだ。


「シュ、ウ・・・」


あとちょっとだったのにね。


ごめんね、私じゃやっぱりダメみたいだ。


だってこれはきっと『予定されていた死』なんだもの。


つまりはヴァンパイアになることを体が拒否してるってことでしょ?


そうしたら、ここに来た時点で私の未来は一つしかないじゃない。


頭の中で甲高い笑い声が聞こえる。


過去に死んでいった花嫁たちの笑い声が。


あなただけ幸せになるなんて許さない、だって。


「おい、しっかりしろ!名無し!」


それでもちょっと嬉しいかな。


だってあなたにこんなに想ってもらってたなんて、思わなかったもの。


そんな泣きそうな顔、今まで見せたことないでしょ?


「あ、あのね」


もう、泣かないでよ。


私だって悔しいけど、それでも最期に泣き顔を見せるわけにはいかないもの。


最期は笑った顔が見たいじゃない。


「ありがとう」


その瞬間、意識が途絶えて目の前が真っ暗になったのだが


私が最期に見たのは、目を見開いてこちらを見るシュウの泣き顔だった。







幸せになれますよう
覚醒一歩手前で朽ち果てたヒロイン
シュウ様の泣き顔とかレアすぎる

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