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□逆巻家
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「い、痛っ」


首を掴んでいるその手は私の力では振り払うことができず、かと言って離してくれるそぶりは微塵もない。


何とか呼吸はできているものの苦しくてたまらない。


どうしてこうなったんだろう。


「ラ、イトっ・・・や、め・・」


必死に声を出して懇願すると、私の首を絞める張本人は嬉しそうに笑った。


「苦しい?痛い?息ができなくなってきた?まさかもうやめて欲しいなんて言わないよね?


もっと見せてよ、名無しちゃんの歪んでる顔。僕は苦しんでる君を見るのが大好きなんだから」


狂ってる。


そんなのとっくに気付いてる。


彼の異常さも、それを受け入れてしまった私もどこかおかしいんだって。


「ああ、名無しちゃん最高だよ。もっと苦しそうな目で僕を見て?もっともっともっと・・・」


首にかかる力は先程よりも強くなり、私の息も止まりそうになったその瞬間、不意に手が緩められた。


助かったと同時に、広がる不安感。


どういうつもり?


そう思ってライトの方を見ると、凄く嬉しそうに笑っていた。


「ふふっ、苦しかった?今度は、苦しみだけじゃなくて『痛み』をあげるからね?」


不意打ちで襲いかかってきたのは鋭い痛み。


おそらく鎖骨の辺りを噛まれているのが分かる。


「いっ・・・!」


痛いという言葉さえ出せないほど、すさまじい痛みだった。


痛点を狙ってるんじゃないかって位。


「痛い?そりゃ痛いだろうね。だって痛くしてるんだから」


クチュクチュと血をすする音が聞こえる。


私の中を支配しているのはその音と痛みの感覚だけで、何も考えられなくなっていた。


「でも、痛いの好きなんでしょ?」


ライトの声が脳内に響く。


もう何十回もその台詞は、私の中に染みついていて


痛いのに、苦しいのに、止めて欲しい筈なのに


それができなくなっていた。


「もっと欲しいんでしょ?」


その言葉に対して首を縦に動かす私は、やはり狂っているのだろう。







戻れないことなんて分かっていた
最近、吸血されてないなと思いまして
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