カカオフィズを飲みほして

□ご対面
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船長「お前ェがみきか」

大きな酒瓶を片手にその人は
鋭い目で私を見下ろしている
蛇に睨まれた蛙とは
昔の人はうまく言ったものだ
今の私を表すには丁度いい言葉だ

『っ…』

恐怖と驚きで声も出せずにいた
小さく震えていると
船長さんはグララララと
独特の笑い声をあげた

船長「とって食ったりはしねぇよ そんな怖がるな」

口ではそう言いつつ船長さんの目は
相変わらず鋭く怖かった
品定めをしているのかな…

船長「お前ェ何でも他の世界から来たらしいな」

マルコさんは私の事情をあらかた
船長さんに話してくれていたみたいだ

やっぱり声は出なくて
コクリと頷いてみせると
そうか、と一言だけ返ってきた

船長さんは手に持ったお酒を
ぐびぐびと喉に流し込んだ

船長「この船は行き場のねぇゴロツキばっかり乗ってるんだ」

鋭い目のまま船長さんは船の話をした
周りを見渡した時の船長さんは
一瞬だけ優しい目をしていた
クルーの皆さんがほんとに大切なんだ
ということが伝わる
その優しい目を見た瞬間
ぎゅっと心の奥が締め付けられた
こんなふうに
大切にしてくれる人がいるなんて…
いいなぁ…

船長「お前ェも行く宛がねぇのはよく分かった。だがタダでこの船に乗せておくってのもなぁ」

普通はそうよね
タダで乗せてもらえるなんて
むしのいい話があるはずない
なんの取り柄もない私なんか
置いておくなんて穀潰しを増やすだけだ

でも私が今頼れるのは
この人達しかいない…

船長「お前ェ何かできることはあるか?」

できること…なんでもいいのかな…

『炊事洗濯等の家事全般なら人並みには…』

震える声でなんとか返事ができた
一人暮らしをしていたので
私ができることと言ったら
最低限それくらいしかない

船長「そうか、ならこの船の雑用係でもやってもらうか」

どうにか食扶持が繋がりそうで
私はおそるおそる船長さんの顔を見た
ここに来て家事のスキルが役に立つとは
思ってもみなかった

船長「おい、マルコ お前ェが拾ってきたんだ こいつのことぁ雑用にでもなんでも使っていいからお前がしっかり面倒みろよ」

どうにか船に乗せてもらえるようだ
よかった…ここで働いて
ゆくゆくは拾っていただいたご恩を
マルコさんにお返しして
どこかご迷惑にならないところで
静かに暮らせるように頑張ろう…

私が思考を巡らせていると
船長さんとマルコさんは
何やら話をしているようだった

船長「俺ァエドワード・ニューゲートだ 外のヤツらには白ひげと呼ばれている」

白ひげさん…?
愛称の由来は恐らく
立派なおヒゲからだろう

『ぁ、改めましてみきです…お世話になります…』

深々と頭を下げると
グララララ…と笑う声が聞こえた

マルコ「あーなんだ オヤジもああ言ってるし今日からよろしくな?」

『こちらこそお世話になります』

マルコさんにも頭を下げて
改めて挨拶をした
もう1度白ひげさんに挨拶をして
私たちは白ひげさんの元から立ち去った

マルコさんのあとについて行くと
また先程たっていたところに戻ってきた
サッチさんはどこかへ
行ってしまったらしい

マルコ「正式に仲間に入れてもらうつもりだったんだが…オヤジなりの配慮らしい…すまねぇよぃ」

正式な仲間…?
私は派遣社員的な立ち位置なのだろうか
でもまぁいずれは
出ていかねばならないだろうし…

『いえ、気にしていませんよ』

マルコさんはそうかと
バツの悪そうな顔をした

マルコ「オヤジは雑用でもなんでもっつってたが俺はお前をこき使うつもりはねェから寛いでくれればいいよぃ」

『それは困ります。私なんかを拾っていただいたのですからせめて働かせてください。私に出来ることなら何でもしますので』

マルコさんに頼み込むと
最初は断っていたが
根負けして承諾してくださった
ちょっと強引だったかな…
でも穀潰しで置いてもらうなんて
居心地が悪すぎる

マルコ「立ち話もなんだし俺の部屋に行くよぃ」

マルコさんはそう言うと
船の中へと入っていった
私も慌てて後について行く

こんなに広い船で生活するなんて…
迷子にならなければいいけど…

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