カカオフィズを飲みほして

□行き場
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「少しは落ち着いたかぃ?」

私の涙がようやく止まり始めた頃
怪しいその人は優しい声色で
そう問いかけてきた

『はい…取り乱してしまってすみません…』

私は鼻をすすりながら謝罪をした
私の涙が止まるまで
彼は見捨てずにずっとそばにいてくれた
こんなに怪しいのに本当に優しい人だ
人にこんなに優しくしてもらったのは
いつぶりだろう

私はそんな優しさに触れてしまったからか
出会ってまもない素性もわからないその人に
ここで気がつくまでの経緯を
ぽつりぽつりと話し始めた

『…というわけで…それ以外は何も…』

話の流れはグダグダで
長ったらしい話だったのに
彼は真面目に話を最後まで聞いてくれた

「なるほど…しかし聞いたことも見たこともねぇ所の話だなぁ ニホンっつったかぃ?そんな国はねぇはずだよぃ」

私は少なからず彼の答えに落胆した
日本なんてない…
ここはやっぱり私のいた場所じゃない
ということはもしかして…
私はあの時死んで…ここはあの世…?

『ここはもしかして死後の世界とかそういうやつですか?』

「はぁ?何言ってんだよぃ ここが死後の世界なわけねぇよぃ」

そんなにもおかしなことを言っただろうか
その人は心底可笑しそうに笑った
何を根拠にそんなことを言えるのだろう
だって私の最後の記憶は
トラックに轢かれるところだ

『なんでそう言いきれるんですか?』

少しばかし不機嫌になりつつ
そう問いかけるとその人は
ようやく笑うのをやめた

「なぜってこの世でも人は死ぬ、死因は様々だ寿命、事故、殺人…それに今は大海賊時代だなんて呼ばれ方もしている 死後の世界で命をかけるだなんておかしな話だろぃ?」

大海賊時代…?
それって随分昔の話じゃなかったかしら…?
コロンブス的な…
私の頭はますます混乱する
でも確かにこの人が言うことが
本当であるのなら
死後の世界で“命をかける”だなんて
とんだ笑い話だ
かける命なんてないのだから

「とまぁそういうことだ ここが死後の世界ではないことは確かだよぃ」

自信満々に言われてしまうと
なんだか納得してしまう

彼は簡単にこっちの世界の話をしてくれた
この世界は
大きく4つの海に分かれていること
一昔前にゴールド・ロジャーと
いう大海賊が処刑されたことが引き金になり
大海賊時代が始まったこと…

彼はとても物知りだった
海の話をしている彼は輝いて見えた
彼は一体何者なのだろう…

『あの…とても物知りなんですね』

私だって前の世界のことなんて
こんなに沢山知らなかった

「そんなことねぇよぃ、旅をするのには知識が必要だっただけだ」

この人は旅人だったのか
そう言えばこの島の人間か
聞かれた気がする

この人のことを何も知らない…
会ったばかりなのだから当然だけども
名前すら聞いていないことに気がついた

『そうだ、私みきといいます』

「あぁ、まだ名乗ってなかったかぃ 俺ァマルコだ」

マルコさん…
ヨーロッパに多そうな名前だ
頭の悪い私は人の名前を覚えるのが
苦手なので彼の名前を
心の中で何度も呟いた

マルコ「お前さん、これからどうするんだぃ?」

マルコさんの質問にハッとした
そうだ、何も解決していない
これからどうするかも
これからどこに行くのかも

.

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