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心が冷えたならもう一度暖め直せばいい。
好きという感情がわからないのなら俺が教えてやればいい。
ある特定の男に敬意をはらうくらいなら
俺のものになればいい。
仲間が殺されて気を悪くしたなら、俺を使って鬱憤を晴らせばいい
お前の好きになるものすべてを愛したら、
お前も俺を好きになってくれるんじゃないだろうか



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「伏見ー、ごめんやけど買い物いってくれへん?」


そういって、当たり前のように伏見の手に持たされたのは所謂エコバックのようなもの。
はじめから拒否権のない話をふられては断るまもなかった為にてか、
其の出来事からbar HOMRAを出るまで機嫌はさほど良くなかった、
どちらかと言えば悪いと言える。
ひらひらと何ら悪気無さげに手を振って、気を付けてな。
何て言う姿、流石に草薙も鬼だなと思ったのは言うまでもないだろう。
からんと音を立てて扉を押し開けるとびゅう、と予想通りな寒い気候。
冬の気候故にマフラーや手袋がない分指先、鼻が凍えるようにキンとした。


「寒っ」


息を吐くと其は目に見える白いものへと変わって、
嗚呼こんなに今寒いんだななんて感傷的に呟くもそんなことをいっている暇などない、
とにかく寒い。
買うものを書いた草薙字のメモを眼前に持ってくれば其処に書いてあるすべての字に視線を遣る、
そんな光景もはたはた見れば主婦のようだと感じれば無償に嫌気がさした。
すると、気温も気温でちらちらと白い冷たいものが頭上から降ってくる、
其は決して積もる、というところまではいかないがとても綺麗だった。


「雪…か――。」


今は本降りでないから良いもの、
もし買い物を終えて帰宅する際に本降りだと確信的に面倒なことになると予想したために
先を急ごうとした
――矢先のことだった。
見覚えのある茶色が揺れている。
眼前で。
其の茶色は少々機嫌が悪そうに窺える、
案の定其の茶色の前にいるデカ物といざこざでも起こしているんだろう、
伏見は其の茶色、否八田美咲という少女のもとへと保護者の如く近付けば
眼前に聳え立った其のデカ物を横目に
ギャアギャアと騒ぐ八田を放って交差点、又は商店街から少し反れた人での少ないところへと引っ張って行けば
そこでやっと八田を離してやった。


「邪魔してんじゃねーよ猿!」


離したと同時に此方に牙を向く美咲。
其も愛だと認識する伏見は矢張変わっているのだろう。
伏見は華奢な美咲を一目二目と見れば此処でやっと笑みを消しては
浅い溜め息を吐いた。


「美咲よー、女の子のくせにあんな野蛮な輩のところにホイホイ行っちゃ駄目だろうが、美咲がもし(台所の黒い悪魔称して)Gだったら絶対真っ先にホイホイされるところだよ?」


「ホイホイされねーもん!変な例えかたすんな!」


頬を風船の如く膨らませれば軽く髪を乱しつつ首を振るう美咲。
流石にGに例えるのは悪かったかと苦笑いを浮かべれば遥か伏見と身長さのある美咲が
上目遣い気味に睨みあげてくる様子を軽く視界に納めつつ、
一言ごめんと悪びれなしに告げた。






やがて、雪がやんだ頃伏見と美咲が買い物を終えてHOMRAへと帰宅しようと歩いていた、
ずっしりとした重みのある其の鞄を肩に掛ける、
袋一杯に入った調味料やらを見れば買いだめでもしたのだろうと予想はついた。
と、すると先先買い物に一緒にいくと聞かなかった美咲が隣で歩いていたと思えば
くいくいと伏見の袖を引っ張る、


「猿、…猿比古。」


唐突の声を聞くと同時横目に美咲の様子を確認してみるが美咲は俯いて表情は窺えない。
でも声が自棄に張り詰めていて、珍しいなと思った。


「何だよ美咲」


「お前さ、…あの…よ」

「ん?」

「あの、…っ吠舞羅抜けたりしないよな…?」


美咲は何を深く考えていたのか俺が吠舞羅を抜けるなどと、
大きい双眸は伏せられているために矢張表情は分からない。
が伏見の服の袖を握る美咲の小さな手が震えているのに気づいた頃には既に勝手にからだが動いて、
持ってた荷物が腕から落ちるのにも構わずその場で美咲を腕のなかに納めていた。
すると伏見の背中にも行き場を見失っていた美咲の腕が回る、
美咲はぎゅうと伏見の胸板に顔を埋めるや伏見の服にぽつぽつとなにかおとし始めた。


「…、なんで泣いてんだよお前」


流石にこれは驚かざる得ない。
肩を揺らし泣く美咲の姿さえ希少価値なもので鑑賞したい気満載なのだが
それどころではない、強がりで意地っ張りで負けず嫌いな美咲にあるまじき光景だった。
ずず、と鼻を啜る音、いっこうに泣き止む気配のない美咲を見るのは少々気が引けた。
刻は進み美咲が泣き始めて13分というところだろうか、
ぼそりと八田の声が耳を擽った。


「昨日、夢見た。猿が、いなくなるって」


「此処にいるだろ」


「そうじゃなくて…!」


やっと美咲が出した声も俺の返答に怯めばまた黙りこくる、
そんなことを繰り返していたらすっかり辺りは暗くなっていっていた。


「美咲よ?本当に俺がいなくなると思ってんのかよ」


「思ってる。」


「信用ねーのな。」


「ちが…っ…違う!」


「じゃあ何」


「そう思っとかねーと、本当にいなくなったとき……、」


“辛いだろ?”












改めて思うことがある、
美咲は馬鹿だ。
まだ起こっていない、夢が正夢になることなんてあるかないかの出来事であるのに疑わず信じこむ。
でも其が美咲の凄いところだ。



「…さる?」


伏見の目に映るのはたった一人美咲だけだ、何があろうと。
でも美咲は違う。
彼奴が一番好きなのは赤の王周防尊なんだ
俺じゃない、俺じゃない男だ。


そう考えたら、無意識に美咲を抱き締める手に力が籠った。




「俺は此処にいるから。」



今は、精一杯の微笑を浮かべてそういうしか出来ない、








*************











「おー、八田ちゃんと一緒やったん伏見、偉い遅かったやんけ」


「すいません、」



「草薙さん腹減ったー」



あの後、何か糸が切れたようにまた美咲がビービー泣き出して、
横を通った家族連れや老夫婦が不振な目で見てくるものだから潔くbarに帰宅した。

それに買い出しに出てから軽く五時間くらい経過していて、辺りの家は既に点々と電気を灯し始めていた時間帯だったものだから、流石の草薙も赤城たちに探していかせようとしていたらしい。
まあそれもどうでもいい話だが。

当の美咲は元からカウンターに座ってオムライスを食べていたアンナに並んで座り、
スプーンをくわて乍草薙に自分にもオムライスを、とねだっている。
明るく振る舞っているようだが目尻は矢張赤く腫れていた。





▼▲▼▲▼







美咲が周防を愛す理由は、
力か、憧れか。


否。


ただの恋愛感情か。

そんなこと、あってたまるものか。

俺は美咲がいるから吠舞羅に入って

美咲だけずっと見ていられるように執着し愛した。
ただの自己満足だということは知っていた。

そこまでしても一人の男しか見ていない美咲が憎かった。


そして、其の美咲を憎む元凶の男の下についている自分が、
やりきれない気持ちで一杯だった。



そして其の時、俺の目に映ったのは
赤と正反対の色だった。





▼△▼△▼△▼










「……っ」




その日は、雨が降っていた。
空は晴れているのに。
目の前の愛す人は。



「お前...なんで…っ」



泣いていた。










心が冷えたならもう一度暖め直せばいい。
好きという感情がわからないのなら俺が教えてやればいい。
ある特定の男に敬意をはらうくらいなら
俺のものになればいい。
仲間が殺されて気を悪くしたなら、俺を使って鬱憤を晴らせばいい

お前の好きになるものすべてを愛したら、
お前も俺を好きになってくれるんじゃないだろうか


そう思ってた。


けど、違ったんだ








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